TOP2016年06月復興の足音、喜ぶ山小屋関係者 「安全に登山者迎えたい」
二ノ池から流れ出す小川に橋を架ける小寺さん(左)ら安全パトロール隊員。水は火山灰で濁っている=28日午後0時49分、木曽町
五の池小屋に登山客がくつろぐ場として設けたカフェスペースに立つ市川さん(左)=28日午後2時12分、岐阜県下呂市

 死者58人、行方不明者5人を出した御嶽山噴火災害から約1年9カ月を経た28日、入山規制が解除された御嶽山の登山道を記者が歩いた。木曽郡木曽町側の黒沢口登山道と、岐阜県側の小坂口登山道などを結ぶ噴火前の主要ルートの一つだ。山小屋関係者の再起にかける思いに触れ、噴火の影響も懸念されたニホンライチョウにも出合った。復興への足音を感じつつも、観測態勢の充実など安全対策に課題が残る現状も垣間見た。

 「少し明るい気持ちになりますね」。同日正午ごろ、木曽町三岳の黒沢口登山道9合目にある山小屋「石室山荘」から約500メートル先。入山規制の看板を撤去する小寺祐介さん(36)は霧雨の中で時折、笑顔を向けてきた。

 噴火時は、山小屋「二ノ池本館」の支配人だった。二ノ池本館は今回の規制解除までは入れず、別の山小屋を手伝いながら登山者に情報提供する町の安全パトロール隊員を務めてきた。

 規制解除地点から300メートルほど歩くと、霧の中に二ノ池が浮かんだ。水は灰色に濁り、ほとりには粘土状の灰が大量に堆積していた。エメラルドグリーンに輝き、周辺の山小屋に飲み水を供給していた噴火前の姿は想像できない。池のほとりの二ノ池本館の床にも灰が残り、電気が通じない暗い室内は静かだった。二ノ池本館は、町が建て替える予定で、当面は避難施設に使う。

 小寺さんが、もう1人のパトロール隊員と強まる風雨の中で、二ノ池から流れる小川に木橋を架ける作業を始めた。「せっかく来てくれる登山者を安全に迎えたい」。途中で手を休め水面に目を落とした。「噴火直後よりだいぶ色が薄くなってきた。自然も元の姿を取り戻そうとしているのを見てほしい」と語った。

 天気に恵まれない平日とあって、出会った登山者は2人だけ。二ノ池本館で言葉を交わした神戸市の会社役員政次哲夫さん(65)は、噴火災害の慰霊を目的に木曽側から登って来た。「一人一人に思いがあったはず」と山頂に向かい、手を合わせたという。

 二ノ池本館を出て100メートル余り岐阜県側に進むとボーリング用のやぐらが見えた。作業中の男性によると、火山活動の観測機器を設置する作業で「やっと昨日、ヘリコプターで資材を上げたんだ」。噴火災害の教訓を生かした観測態勢の充実は途上だ。気象庁は噴火後、登山者の携帯端末に噴火発生を知らせる「噴火速報」も始めた。ただ、規制解除区間の多くの場所で端末に電波は届かなかった。

 二ノ池から岐阜県側に入ると、灰はほとんど見られなくなった。登山道の所々に灰が残る長野側とは対照的だ。ハイマツ帯の登山道で、生息環境の悪化が心配されている国特別天然記念物ニホンライチョウを2羽見掛けた。

 岐阜県側の規制解除地点、摩利支天乗越(まりしてんのっこし)から400メートルほど岐阜側に下った場所にある五の池小屋に着いた。管理人の市川典司さん(45)が登山者を迎えるカフェのカウンターを準備していた。「御嶽山を自然の脅威も恵みも感じられる山として復興したい」。熱い思いを聞き、来た道を引き返すと、空に少しだけ晴れ間がのぞいた。

2016年6月29日掲載