TOP2016年09月火山防災、新たなステージ 教訓伝える・啓発担う
周囲が色づきつつある御嶽山の登山道。地域全体で防災意識を高められるか=27日、木曽町

 噴火2年となった御嶽山は気象庁などの観測・監視態勢が一定程度強化され、今後の防災面は、登山者や観光客にどう火山の危険性と恵みを伝えていくかが問われる。木曽郡木曽町の原久仁男町長は27日の追悼式で、情報を発信するビジターセンターを整備し、北海道・有珠山の「火山マイスター」を参考に人材を育てる意向を示した。戦後最大となった火山災害は、犠牲者の遺品などが多く、標高約3千メートルで起きたという特徴がある。十分な備えにつなげられるか、噴火3年目からの取り組みに懸かっている。

<教訓伝える「ビジターセンター」整備目指す>

 「山の安全を第一に、避難壕(ごう)やビジターセンターを整え、『火山マイスター』制度の導入を視野に人づくりの仕組みを整えていく」

 27日、木曽町で開いた追悼式で原町長は、火山防災態勢を強める決意を述べた。町は、噴火当日の登山者の証言を集めてビジターセンターで紹介したいといい、被災した登山者や犠牲者の持ち物の展示も「(災害について)理解し、心構えをしてもらえる」(原町長)と前向きだ。

 噴石で折れた金属製のストック、火山灰にまみれて穴があいたザック...。被災者家族による「山びこの会」事務局代表のシャーロック英子さん(57)は被災品について、「噴火がどれだけ壮絶だったのかを直接伝えられる」とし、火山の危険性を知らせ、被災の歴史を伝えるために必要―と捉えている。

 原町長の発言に、遺族の野口弘美さん(58)=北安曇郡池田町=は、噴火で亡くなった夫の泉水(いずみ)さん=当時(59)=の衣類などについて「実物(の存在感)を感じてもらえるなら寄贈したい」。27日に王滝口登山道(木曽郡王滝村)を登った愛知県大府市のカメラマン花井知之さん(41)は「噴火の歴史が分かる」と、噴石で穴が開いた山小屋の屋根などの展示を提案した。

 県が本年度設置した「火山防災のあり方検討会」は、全国のビジターセンターなどの52施設を対象にアンケートをした。回答した43施設のうち、火山防災に重点を置く施設では、被災品などの実物の展示と、人を通じた解説を行う取り組みが目立った。

 1990年代の雲仙・普賢岳(長崎県)の噴火を受けてできた雲仙岳災害記念館は、火砕流で被災した報道カメラや住民の長靴を展示する。ただ、元副館長で、長野県の検討会に加わる内閣府火山防災エキスパートの杉本伸一さん(66)は、被災地区では「観光的な展示ではなく、防災のために見てほしいという意向がある」とし、ボランティアらが解説するように工夫。

 展示品を集める際に、「教訓を伝える目的を地元が遺族らに丁寧に説明する姿勢が必要ではないか」と指摘する。

 シャーロックさんも、遺族にとって形見とも言える品を展示するには、「観光客や住民が火山を幅広く学び、物販などで地元の復興にもつながる」ような施設がふさわしいと考えている。

 木曽町とは別にビジターセンターを検討する王滝村の瀬戸普村長は「どのような機能を持たせるか、県の検討も踏まえて判断していきたい」と話した。

<啓発担う「火山マイスター制度」導入模索>

 県が本年度設置した火山防災のあり方検討会は、ビジターセンターを拠点に、御嶽山の火山としての特色や災害の伝承を担う人材の育成をテーマの一つとしている。追悼式で原木曽町長が言及した有珠山の「火山マイスター」制度に注目しており、最終報告では、この制度も参考に概要案をまとめる。ただ両火山は特色が異なり、地域に合う制度にする議論が必要だ。

 火山マイスター制度は、2000年の有珠山噴火をきっかけに、08年に始まった。火山の知識や災害の歴史を学んだ住民が、専門家らによる審査を受け、これまでに43人が認定された。11年にはマイスターの任意団体ができ、有償ガイドを担ったり、自主的な学習会を開いたりしている。

 検討会に加わる県、木曽町、王滝村の職員ら10人は7月、有珠山を訪れ、マイスターの活動などを視察した。

 検討会メンバーの山梨県富士山研究所の吉本充宏主任研究員(46)は、有珠山は北海道大が観測対象としてきており、「地域を支える研究者と住民の距離が近い」と説明。有珠山は近年、ほぼ30年周期で噴火し、標高733メートルと低く火口が居住地域に近い。内閣府火山防災エキスパートの杉本伸一さんは「住民が次の災害に備える危機感が高い」とする。御嶽山では、研究者の確保や住民意識の向上が課題になるとみる。

 一方、御嶽山を長く研究する東濃地震科学研究所(岐阜県瑞浪市)の木股文昭・副首席主任研究員(68)は、御嶽山は高峰で山岳ガイドや山小屋関係者といった人材が活躍できる点を指摘。原町長も「山関係者を中心に輪を広げて育てていきたい」と見通す。

 マイスターが情報提供する対象は、登山者を中心とするか、地元住民を含めるか、関係者には温度差がある。

 有珠山で県検討会メンバーの視察を案内した火山マイスターで中学校職員の阿部秀彦さん(48)は、将来にわたる効果を高めるには「長く制度に関わる住民を育てていくことも必要になる」。有珠山麓では火山の学習を重視する小中学校も多く、「子どもに伝えることで、関心を持つ住民が増えてきた」としている。

 原町長は追悼式で、災害の教訓を地域に広めるため「共に取り組んでもらう住民を育てていくことが大きな使命」とも述べた。どう具体化していくか、模索が始まる。

2016年9月28日掲載