TOP2012年06月残念だった明日香荘閉鎖 ムラの施設の経営困難とは

 新聞報道によれば、先ごろ大町市八坂の明日香荘が経営難から店を閉じてしまったとのこと。びっくりしました。経営はそんなに悪かったのかしら...と。

 そういえば明日香荘は、ずいぶん前から、名物の蕎麦の味が落ちてきているなあ、と思い当たりました。蕎麦の味の変化と客の入りは、関係が深いのだろうと、改めて思いました。

 明日香荘は、旧八坂村が、村随一の観光施設として40年も前に建設しました。温泉が出るし、名物の灰焼き「おやき」(焼餅)はたいへん特色があって、人気を博しました。そして蕎麦。山間の傾斜のきつい畑に育つソバは風味がよく、なかなか美味しい、と評判になったものです。

 村はソバ栽培に力を入れ、製粉工場を建てて普及をはかりました。村民が自家用にと、大きな袋を持ち込んで製粉を依頼しているのを時々見かけたものです。

 年に1度の「新そば祭り」がなかなかのもので、何度も食べに行きました。

 もう10数年前のことになりますが、大町へ毎週通っていた時のこと。新そばのシーズンで各地で「そば祭り」をやっていたので、昼食にはよく出歩きました。しかしその頃でも、本当の「新そば」を味わえることは稀でした。そんな中で、明日香荘で食べた時には、一緒に行った地元の人と思わず、「うん、これは新そばだ」と小声でうなずきながら、一気にすすった思い出があります。気取りのない一般食堂のたたずまいで、器なども安物。ツユの味は田舎風です。しかしそんな周辺事情を忘れて、実に美味しかったのです。――――明日香荘は、そのころがピークだったのかもしれません。

 その後、村の中では蕎麦を名物に、という動きが盛んになりました。村民有志グループが「そば祭り」を開くようになり、また、別の施設も出来てきました。

 明日香荘などのある一帯は、役場や学校が集中する村の中心地。国道19号から20分ほど登っただけの距離ですが、相当に急傾斜地で、観光で訪れる人は多くなかったと思います。山間地の典型のような山村で、人口が減る過疎に悩まされてきました。それでも全国に名を売った先進的な「山村留学」の試みが一定の成功をおさめるなど、元気一いっぱいでした。そんな中での温泉宿泊施設、明日香荘だったのです。

 早くから赤字経営だったと聞きます。村が独立していた時代には、村一番のにぎやかな施設として存在価値が認められ、赤字であっても村が補填してやりくりしてきた、といいます。

 それでも、施設を新しくしたり、経費もかさんだのでしょう。蕎麦にしろ焼餅にしろ、だんだん味が落ちてきました。私も足が遠くなったのは確かです。味が落ちて客足が減る、という傾向は、町のそば屋でも同じこと。

 そば祭りの魅力も減りました。そのころ思ったのは、自信を持つのはいいとして、ちょっとした味の評価の違いに口をはさむと、えらい勢いでたしなめられたこと。他からの意見に耳を傾けなくなる(聞く耳を持たなくなる)のは、味が落ちて行く兆候です...。味の自信の裏側で、本物の良さを掘り下げる努力を怠ったのではないか、と、酷なようですが、思います。

 他の地域の村起こし、地域作りの場合にも、かなり言える話でしょう。南信地方でも、有名な割に味を落として去年店を閉じたそば屋に出会いました。

 各地で旧村営施設が、指定管理者制度になって、都会からやってきた大手の業者に運営を任せる例も多く見られます。地元の人には最初、何となく違和感もつきまとうようですが、経営のノウハウがあって、以前より改善された例はあちこちで聞かれます。表向きに感じる味の評価だけではない経営努力があるのでしょう。これでもう少し、地元らしさを上手に表に出して、本物の味を追求してくれるとうれしいのですが...。

 いずれにしろ、明日香荘の閉店は私にとってショックでした。施設の再開を待ち望んでいますし、地域全体の活性化が新しい視点で試みられることを期待します。

2012年6月20日掲載

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