TOP2017年04月そば屋が客を選ぶ?

 久しぶりに訪れた長野市近郊のそば屋で。蕎麦は相変わらず美味だったのだが、ご主人の愛想がよくない。どこか、嫌われているような殺気を感じた、妙な気分だった。私がよそへ行ってこの店の悪口を言いふらしたわけでもないのに...。以前、時々通っていたのが、パタッと行くのをやめたからだろうか。

 行かなくなった理由は簡単だ。メニューが豊富になってきて、ふだん食べている大盛りそばが1000円を越えてしまった。これは昼食に簡単には食べに来られないなあ、と迷っているうちに年月が過ぎた、わけである。値上げしてから何度か食べて、そのことは伝えておいた。もう簡単には来られない、と。それが機嫌を損ねたのだろうか...。しょうがない、自分の食べ歩きのフトコロと相談の話だ...。

 食べる、食べないは客の勝手だと思っていたのだが、もしかしたら違うらしい。店の方でも、この客はいい、この客は困る、と選別しているらしかった...。

 そういえば、そんな思いは、時々感じることがあった。

 郊外のあの店では、旦那が奥の方にいて、私が行くと、嫌な顔をする。そこへいくと内儀さんはにこやかに接してくれて、旦那とは大違いだが。どことなく、とりつくろう感じで、気分がよくない。だんだん足が遠くなってしまった。顔見知りになる、というのは、時に、お互いにつらくなることがあるなあ、と思ったのだった...。

 町なかの古い店では、やはり旦那に嫌われているのがわかった。最初は良かったのだが、何か批評をしたのが気に障ったらしかった。それは無視して食べに行ったものだが、息子が跡取りになって蕎麦を打つようになり、その感想を話したのがいけなかったらしい。息子にも嫌われるようになった。そうか、余計なことをしゃべってしまったなあ...。奥さんはいつも、気遣ってニコニコしてくれるのだが...。以後、パタッと行く気がしない。嫌われた店に、こちらから行くことはないだろう...。

     ☆

 ずいぶん昔のこと。そば好きの先輩から電話をもらった。市内の小さなそば屋で、ちょっとした注意をしたら、ひどく怒られた、という。確か、そこのそば屋は、先輩も以前からよく誉めていて、評価が高かったはず。すっかり慣れて親しんでいたから、気なしにしゃべったのだろう。それが猛然と食ってかかられた、と嘆いていた。好意で話したことが、仇になって返ってきた、というわけである。

 ...あの店ならそうだろうなあ、と納得した。蕎麦の味はいい、値段は安いし、その割にサービスも充実している。ただし、半地下室のような雰囲気は、少し暗いので、気に入るかどうかは人の好みで分かれる。食べる蕎麦は、食べ方も含めて、妙に決まりがあるような雰囲気だった。何か言えば、相当に反撃される、とは私も経験したことがあった店だ...。

 その先輩は、その後急に亡くなってしまったので、後日談は聞けなかった。それにしても、もしかしたら一種の「ひいきのひきだおし」かしら、とも思った。余計な感想は、用心して言わない方が得策だろう、と学んだものだった。

 それでも、つい、感想を話すことがある。顔見知りになり、試しに作ってみた、味見してみて下さい、なんて言われると、ついうれしくなって、ペラペラしゃべる。...誉めるだけだったらいいが、時には店主と違う感想になることもある。...それが気に入らないと、こちらの舌の評価が下がるようで。お互いの感想がすれ違うことはいくらでもある。

 ...それを言ったがいけない、と判断されることが、けっこうあるらしいのだ。その後の応対が、だんだん違ってくるのがわかって。こちらも少しずつ足が遠くなったりする...。

     ☆

 基本的には、客が店を選ぶのが普通だろう。しかし、世に売れた店などは、どうやら、店の側がけっこう客を選ぶらしい。

 典型的には、蕎麦1枚の値段で、余裕のある人と、あまり余裕のない人に選別されてしまう傾向がある。我が店はこういう裕福な客を相手にしてます、と名乗るような店も時々見かける。

 確かに美味しい蕎麦だ、とわかっていても、あの値段では、なかなか行く気になれないなあ、と思案する店が、増えたような気がする。

 また、お酒を飲む客がいい、と夜の商売に熱を上げるそば屋もかなりある。そのうち昼の蕎麦をやめてしまうと、私などは行く機会がなくなる...。

 観光地などでは、明らかに観光客相手のひどい味の蕎麦を出す店もある。たまたま入って食べると、がっかりするのだが。それが偶然知り合いの旦那がいる店であれば、お互いに気まずい思いをすることになる。もう二度と寄らないぞ、と心の中で決めるのだが、それをあちこちへ言いふらすのも何だし...と悩む。

 ...そうやって、通えるそば屋が減ってしまうのは淋しいもの。半分、無責任でもいいから、旨いの不味いのとしゃべりながら、店主の機嫌が悪いだの内儀さんの愛想で救われるだのと、勝手に楽しく食べて歩きたいものである。

2017年4月17日掲載

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