TOP2017年05月そば屋の減塩

そば屋の減塩

5月
15

 今年になってから何度か、長野市内のスーパーで、「食塩ゼロ」と書いた蕎麦を見かけた。あら、珍しい...。「ゆでそば」だったが、うどんでもあった。(「ゆでそば」は、すでにゆでてある蕎麦。鉄道の駅の立ち食いそばはこれが多かった。注文があると、さっと湯がいて丼に盛る、というスタイルだ。)

 麺を作るには、昨今、ほとんど、食塩を使うことが多いらしい。ラーメンなどは初めから鹹水(かんすい)を使うことになっている。小麦粉の麺は、うどんもソウメンも、たいがい塩を使うようだ。...その昔の農家の自家製粉の小麦粉で作るうどん類は、塩を入れない場合もあったと思うが、今はどうなのだろう。

 そこへいくと蕎麦は、本来、塩を使わない打ち方が多かったはず。...しかし、乾麺や生麺など機械を使う蕎麦は、たいがい、塩を加えているらしい。スーパーなどに並ぶ商品の表示を見ると、100グラム当たり、あるいは1食当たり1グラムとか2グラムくらい含まれているのがほとんどだ。

 そんな中で、「食塩ゼロ」が出てきた。麺自体に含まれる塩分を減らす傾向は、これからも増えるにちがいない...。

 試しに1つ、食べてみた。調理は実に簡単で楽だ。ゆで方が微妙らしいのだが、仕上がりはなかなかしっかりしていて感心する。今どきの生麺、ゆで麺のレベルがわかるというもの。しかし、味の全体評価では、物足りなさを感じてしまった。製造技術はどんどん進歩しているようなので、今後はもっと上等な味が出来てくるような気もしたが...。麺の塩分がゼロでも、使うツユが塩からいのであれば、塩分の摂取量はどうにも増減する。やはり、食べる側の好みが反映されるだろう。健康を意識するにしても、食べる人が自分で調節するのが本筋なのかもしれない...。

     ☆

 これとは別に、町なかの一般のそば屋でも、ひところと比べると、塩っぱいツユが減ってきた、と感じる。

 たとえば、蕎麦の盛りがよくて味もいいと評判の長野市内のそば屋は、以前から、ツユが塩からいのが気になっていた。普通の「もりそば」など、猪口にツユを盛り切りで提供する。塩分が気になって、少ししか使わないと、たくさんのツユが残ってしまう。これにそば湯を入れても、塩っぱくて、たっぷり飲む気になれない...。時々小言を言ったものだが、なかなか修正しない。

 何かの折に改めて聞いてみたら、店の旦那が、これが昔からのこの店の味だ、変えるわけにはいかないのだ、と主張があるらしかった。...そうか、それで変わらないのか。

 ツユの濃いもの、塩っぱいのは、その店の個性で、好きでいいのだが。せめて、徳利に入ったツユを、好きなだけ猪口に注いで、自分にとって適量にして食べたいもの...。

 それでも、この店も数年の間に、ようやく人並みの濃さ(塩分)に変化してきたような気がする。

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 長野市では5年ほど前に、そば屋の栄養成分表作りを奨励していた時期があった。市保健所が主導して、いくつかのそば屋で、実際のメニューを分析して表示したのである。タンパクやカロリーとともに、やはり、この時代だから、塩分は気を使って調べたように見えた。

 たとえばある店では、「ざるそば」のエネルギー584kcal、たんぱく質17.5g、脂肪3.8g、カルシウム43mg、塩分2.2g、野菜量8g等とある。これが温かい「きのこそば」になると、エネルギー652kcal、たんぱく質22.7g、脂肪4.1g、カルシウム 84mg、塩分8.3g、野菜量84g等となる。温かい蕎麦で塩分が多いのは、ツユ全体を勘定に入れているからだろう。

 こうした数量の一覧が壁に貼ってあるのを他の店でも見たことがあるが、あまり客の関心をさそう感じではないようだった。...広がりは少なかったようである。

 それでも、よくしたもので、世の中が減塩、減塩、と広く言われるようになったら、いつの間にか、どこのそば屋も、かなりの減塩に進むようになったと見える。

 濃い塩分は、時に、料理を引き立てることがある。あるいは、材料の弱点を補うこともある。一方では、素材の良さをわざわざ減じてしまう場合も見かける。汁を少し濃いめに作っておけば無難だった時代は、終わったというべきだろう。

 傾向としては、若いそば屋の方が、塩分は濃い傾向がある―。育った食環境も関係あるのだろうか。

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 塩分だけでなく、味の濃さという点では、かけ汁の味も気になることがある。

 たとえば、たまたま食べた「きつねそば」。かけそばに薄い稲荷が乗せてあるもの。2軒続けて、味はいいのだが、稲荷の味が妙に濃い。ご飯のおかずになるような味つけだった。そして汁も、濃い...。それは、昆布ダシをたっぷり効かせた味だった。...これで、麺の味が大したことがなければ、ツユで食べさせる味、にぴったりだ。麺が一応の味だったので、かえって、麺の味を後ろへ押しやるような印象を受けた。

 同じような印象を持つツユを、町なかの店で、また郊外の店でも感じたものである。皆さん、苦労しながらいろいろ工夫しているのがわかるような気がした...。

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 汁の濃さという点では、見た目の問題も少しあるのかもしれない。

 盛りが多いので有名な店で、ふと気がついた。徳利から猪口へツユを注いだら、猪口の色が真っ黒で、ツユの色がよくわからない。少なめに注いでおいて、足りなくなったら足していけばいいのだが。ツユは比較的薄めの作りだったので、何度も注ぎ足した。...どことなく、この店の戦略がほの見えたような気がしたのだった。

 猪口の作りや色で、ツユの濃さがわかることがある。見るからに濃いのもあれば、実に淡白な色あいの場合もある。使う醤油によって―濃い口か薄口かで違うし、「たまり」を使うと、また違ってくる...。

 そうした違いを、食べる側も楽しんでみたい。それには、明るい色の猪口の方がありがたいのだが―店主の方針や趣味もあり、なかなか...。

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 冒頭の塩分の話に戻れば、この春になってからは、温かい蕎麦(かけ、キツネ、天ぷら等)のツユの味が、妙に気になることがあった。

 それは、麺にくらべて、ツユの自己主張が優っているように感じることが増えたこと。...たとえてみれば、ツユの力で蕎麦を食べさせるような傾向、とも言える。それは蕎麦の力が弱くなったからだろうか。その麺の弱点をツユの味で補うためなのか...。

 そのせいだろうか、食後の口の中に、ツユの味わいの一部が、しつこく残ることもあった。化学調味料の味だとは思いたくないが、ツユの味がはっきり尾を引くのは、ほめた話ではない...。

 そこでは、ツユの塩分だけでない濃い味つけも影響しているか、とも思った。つまりは、ダシなどを充分すぎるくらい効かせてあったりする傾向だ。この傾向は、冷たい「もり汁」などではあまり意識しないことが多いのだが。たまに温かい蕎麦を食べた時に妙に感じたことだった。

 ...その元をたどれば、麺の、またソバ粉の良質なものが不足してきたからだろうか、と私はにらんでいるのだが。

 そば屋の「冬枯れ」が回復しないうちに、「夏そば」のシーズンになってしまった。これからしばらくの間...とれ秋の新そばが出まわるまで、そば屋にもそば好きにも、辛抱の日々が続くのかもしれない...。

2017年5月15日掲載

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