TOP2017年12月今年の信州そばの傾向

 2017年、平成29年はもうじき終わる。それで、今年の信州そばの傾向を、ざっと振り返ってみたい。もっとも、個人の見聞きする範囲はごく狭い、だからごく大ざっぱに、目にとまったこと、味わった体験などから推測してみる。

 そば屋の商売は、観光客の動向にも左右されることがある。一昨年から昨年にかけての真田丸ブームは、今年は大きく減ったようだ。デスティネーションキャンペーンの効果はあったと思うが、ずいぶん落ち着いたように見えた。もちろん、そば屋にも外国人旅行者の姿は見られたが、それほど顕著に目立ったとは言えないだろう。和食の評判が良くても、蕎麦の世界はなかなか浸透していかないのかもしれない...。

 けっこう目立ったのは、製麺技術が発達したこと。乾麺、生麺などの味が、ずいぶん上がってきたように思う。たまに食べるコンビニの弁当の蕎麦も、食べられる味が増えたようだ。これからますます向上していくに違いない。

 それだけに、「手打ち」と「機械打ち」の区別が、だんだんわかりにくくなってきた、とも言える。私など、どちらでも美味しければいいじゃないか、と思うのだが...。

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 今秋の県下各地の「そば祭り」は、どこも割と盛況だったように見えた。珍しい蕎麦、旨い蕎麦が食べられる、あるいは面白いイベントがある、などの評判が定着してきたからだろうか。それでも、本当に旨い蕎麦を、こうしたイベントで味わうのはむずかしい。皆さん、それは承知で、さまざまな楽しみをめざして集まるのだろう。

 一方で、9月以降、町なかのそば屋で、新そばが、平均していい味だった。似た風味が多い気がしたが、もしかしたら、北海道産のソバ粉が割と豊富に出まわったからではないか、と推測してみた。去年は、ある業者が北海道産を大量に買い占めた、という噂を聞いたのだが、今年はどうだったのだろうか...。

 県内でのソバの出来ぐあいは、よくわからない。現場では出来がよくなかった、という話をいくつか聞いた。あまり減収ではない、去年と同じくらいではないか、という関係者の見解を読んだこともあるのだが。それで、味の方はどうかというと、必ずしも良かったとは言いきれない気がした。

 11月も後半になって、いわゆる「地粉」が町のそば屋にも出まわってきたらしい。微妙に北海道産とは違いがあったような気がする...。

 例えて言えば―--北海道産は、軽く、風味がいい。伸びやかだった。そこへいくと地粉は、表に出る風味が少し弱かった。しかし食べていると、味にどこか深みがあって、それなりに満足感が残る。そば祭りの地粉の蕎麦では、何度かそんな味に出会った。もしかすると、年が明けてから、地粉の本領が発揮されるのかもしれない、と思ったものである。

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 今年はなぜか、天候のせいか、薬味のネギが、夏から、割と美味のような気がした。時には、ああ、ネギの味がいいなあ、もっと欲しいなあ、と感じる機会があった。

 逆に、蕎麦の味が、ネギにずいぶん助けてもらっていたそば屋が多い気もしたのだが。珍しいことだった。そのことに気づいたそば屋は、あまり多くなかったように見えた。

 同じ薬味でも、ワサビの勢いがどうなっているのか、よくわからない...。

 そば屋で普通に薬味皿に出てきたワサビを、そのままツユの猪口に入れて使う人は、今でも多いと思う。これによって、蕎麦の味が引き立つこともあれば、逆に蕎麦のいい風味を邪魔する場合もあるはず。私などはよく、蕎麦の終わりころ、食べすすむ補助にと、ワサビを麺になすりつけて使うことがある。一種の食欲増進剤のような使い方である。これも薬味の役割の1つだと思っているのだが。逆に言えば、ワサビや七味の辛さを借りなくても、お終いまで美味しく食べられる蕎麦もありがたいと思う。

 本ワサビをすりおろして出す店もあるが、チューブから絞り出して提供する店も多いはず。工場での製造のレベルが向上して、その違いがわかりにくくなってきた。一方で、蕎麦の味を保つためには、生ワサビをすりおろしたものより、機械製、あるいは粉ワサビを練ったものの方が向いている、という説もあって、評価はむずかしい。

 ワサビについては安曇野の収穫祭での体験で、たっぷりの、おろし立てのワサビを使えるのがありがたかった。ここでは、ワサビの力で蕎麦を食べすすむことに、少しも抵抗がなかった。

 安曇野では、ワサビの生産が減ってきているという。量は日本一だと以前聞いたことがある。近隣の町村での栽培も減っているらしかった。それで最近、荒れたワサビ田を復旧する動きがあり、また地下水の保全にも力が入ってきた、とのニュースもあった。生産も含めて、信州産のワサビを、上手に活用できると楽しいのだが。

 もう1つの大きな薬味である大根オロシ。これは、つけない店が多いが、昔よりつける店が増えたような気がする。秋のうちは、ごくたまに、オロシの味がいいなあ、と感じる店があった。しかし、これは、たぶん、12月に入ってからが本格的に美味しい味になるようだ。

 「おろしそば」「おしぼりそば」の良さは、冬の寒い時期に本領が発揮されるように思う。辛いだけでなく、地元でよく言う「あまもっくら」というようなふくよかな味わいは、季節もの。上手に名物としてもっと育てていけたら、と願う。

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 信州では今年、長野県農政部などが奨励している新しいソバの品種が、ようやく定着してきたような気がした。

 たとえばタチアカネ。ソバの花の後に実がついて、薄緑色のペチャンコの実がふくらんでいく時(登熟期などと呼ぶ)に、真っ赤に染まるのが大きな特徴。いくらか背(草丈)が低く、それも含めて、風などで倒れることが少ない。こうした特色を踏まえて、タチアカネという品種名がついている。現在は、小県郡青木村でまとまって栽培されている。登熟期には、広いソバ畑が緑と赤の素敵なコントラストのいい景色に染まる。青木村では、栽培も食べる機会も増えて、村内外で定着してきた。味も含めて、広がりが期待される。

 また、「ひすいそば」は厳重な管理のもとに、県下各地で栽培が増えている。会員限定とされるが、粉の状態でも売られているので、そば屋でも使用する例がいくつかあった。

 これも、特色は、熟した実(玄ソバ)の外皮を剥いた時に、特有の薄緑色が濃く出る。これを上手に挽いて、風味豊かな味の蕎麦に仕上げることが出来る、というもの。一般の信濃一号などと交雑しやすいので、それを避けるために、周囲に混じるソバ畑が無いのが条件で、などと制限がある。それだけに、少し高価な粉、蕎麦になっている。

 「ひすいそば」は、産地のそば祭りでは、なかなかいい味の蕎麦が提供される機会が増えた。皆さん、扱い方に慣れてきたのだろう。それでも、粉がいいから蕎麦の味もよくなる、とは限らない例も見かけた。本格的な普及が始まったところ、と言えそうである。

 こうした新しい品種で、信州そばの地位確立が出来ると楽しい。味わいながら、宣伝したりして、話題もふくらんでいくとうれしい。

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 信州では、今年のソバ自体は不作か、出来がいいのか。1月には県全体、また全国の収穫量がわかるらしいが。発表になったら、比較してみたい。

(今年は、少し体調不良につき、この「信州そば漫録」の記事が減ってしまいました、申し訳ありません。来年はがんばって、もう少し内容を深めるつもりです、引き続きご愛読のほどを...。)

皆様、よいお年を。そしてよい年越し蕎麦を!

2017年12月25日掲載

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