穂高連峰・別天地の夏(5) 霧に映る神秘の人影



滝谷側から涸沢側に流れ込む霧の上に現れたブロッケン現象=涸沢岳山頂

 この夏の穂高連峰の尾根歩きで、どこの山頂で出合うかとひそかに楽しみにしていたブロッケン現象に、登山者もまばらになった夕暮れの涸沢岳(三、一一〇メートル)で遭遇した。高山で陽光を背に立つと、自分の影が前面に立ち込めた霧に投影する現象。岐阜・滝谷側からりょう線を越えて長野・涸沢カールに流れ込む霧の上に、新田次郎が小説「槍ケ岳開山」の中で「如来様の御来迎」と表現した、虹(にじ)の光輪に包まれた神秘の人影が現れた。

 涸沢岳周辺の登山道は九八年の群発地震で、あちこちが崩れた。中でも山頂北側の「亀岩」付近では縦走路の一部が崩落し、巨大な浮き石が道をふさいだ。翌九九年、火薬を用いて岩を崩し、二人が並んで歩ける道幅を確保した山小屋関係者の苦労は大変なものだった。

 槍ケ岳から縦走してきた神奈川県横須賀市の専門学校生、熊本舞子さん(28)は、この朝、槍の穂先への上り下りに二時間もかかって出発が大幅に遅れ、夕暮れ間近に涸沢岳に差し掛かってブロッケン現象に気付いた。

 「虹の輪が二重になっている。こんなにきれいなの初めて」。しばし疲れも忘れ、ため息をついていた。

(2001年8月7日 信濃毎日新聞掲載)