浸水直後のラインでの緊迫したやりとりを振り返る田代さん=長野市

同級生、助け合うLINE 先見えぬ中、つながりに「感謝」

2019年10月29日掲載

 「長沼小学校の卒業生たちがLINE(ライン)のグループで励まし合い、情報共有しています」。台風19号で千曲川堤防が決壊し、甚大な被害を受けた長野市長沼地区の女性から本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に声が届いた。その日、どんなやりとりがあったのだろう。同級生たちを訪ねると、地区に住む人、外に出た人たちが被災を機に幼い頃のつながりを取り戻し、助け合った姿が見えてきた。(島田周)

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 「無事な人挙手」

 長沼地区の穂保で堤防が壊れ、住宅地や畑へ大量の水が流れ込んでいた10月13日午後1時17分。長沼から1キロほど南の柳原に住む会社員田代翔士さん(29)はいても立ってもいられず、ラインのグループ「沼っ子」にメッセージを送った。

 「沼っ子」には、長沼小学校を2002年度に卒業した同級生36人のうち26人が加わる。ただ、今も長沼に住むのは11人。ラインを通じた会話も盆や正月の同窓会程度で、それ以外は放置されているようなグループだった。

 「ラインなんかしている場合じゃないのかな」。実家の被災は軽かっただけに田代さんにはちゅうちょもあった。「余計なことだったらごめんなさい」とも書いた。

 「実家は決壊前に全員避難完了」「1階浸水家族は無事です」「いまヘリを待っています」。次々に返信があった。水没した周囲の写真。「赤沼は(水が)ひくのに時間がかかりそう」。県外の同級生は停電で状況が分からない人のため、決壊のニュース映像を送ってきた。

 その日のうちには、浸水した家はあったもののメンバー全員の無事が確認できた。「やらなければきっと後悔していた」と田代さん。

 「沼っ子」はその後、生活を支える情報交換の場となっていく。「古里小学校で、無料で靴を提供しているそうです」「ありとあらゆるサイズの乾電池不足してます」「これからもってく」。家財の浸水状況を伝えたり、不審者情報を知らせたりと、投稿は数え切れないほどに。東京に住むメンバーはスコップや懐中電灯を手に駆け付けた。

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 国道18号「アップルライン」沿いでリンゴ農園「千曲園」を営む滝沢慶祐(けいすけ)さん(29)も「沼っ子」メンバーだ。だが、被災するまではメッセージの通知をオフにしていたほど疎遠だった。

 あの日、農園近くの自宅で浸水が2階まで迫っていた午後2時ごろ、同級生らの安否が気になってスマホを手に。たくさんのメッセージに気付き、自分も「救助待ちです」と書き込んだ。1時間後、滝沢さんは自衛隊のヘリコプターで助けられた。

 妻、娘2人との避難生活が始まると、娘の子供服を同級生が届けてくれた。水没した車の代車は田代さんが手配した。畑が泥に漬かり、今季のリンゴ出荷は絶望的。農機具も壊れた。先が見えない日々の中で、ラインを通じた同級生との接点が「本当にありがたい」と滝沢さんは言う。

 滝沢さん同様、0歳と2歳の娘がいる田代さんは最近、小学生の頃を思い出す。母校の長沼小校舎には一面に泥が入り、子どもたちは当面、隣の柳原小に通う。自分の子どもが小学生になったら、「元通りになった長沼小に通わせたい」―。かつての「沼っ子」たちのように。

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