リンゴ畑を厚く覆う泥を示す黒岩さん=20日、須坂市村山

堤防決壊の対岸・須坂市村山の農地 いまだ届かぬ支援

2019年11月27日掲載

 「長野市側の果樹農家被害はたくさん伝えられているが、須坂市側の被害もぜひ記事にしてほしい」。台風19号の農業被害を巡り、千曲川の堤防が決壊した長野市長沼地区の対岸に当たる須坂市の農家の関係者から、本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に切実な声が届いた。現地に向かうと、河川敷の畑にはぶ厚く泥が堆積し、木には流れ着いた大量のごみが絡み付いたまま。そこには支援の手がまだ届いていない現実があった。(島田周)

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 長野と須坂を結ぶ千曲川の村山橋近く。須坂市村山の河川敷に広がるリンゴやモモ畑は見渡す限り、最大で厚さ40センチほどの泥に覆われていた。取材班に声を寄せた女性(36)の実家、黒岩喜惣治(きそじ)さん(72)の畑では、泥の上にまだリンゴが散乱していた。「とても終わりが見えません」。黒岩さんは半ば諦め顔で見渡した。夫婦2人で傾いた木を元に戻すことから始めて、今は毎日、木に絡んだごみなどを取り除いている。

 堤防の決壊被害が大きく伝えられた長野市東北部では、リンゴ畑の泥やごみを取り除くため、ながの農協や長野県NPOセンター(ともに長野市)などでつくる実行委員会が活動。14~26日の作業日計12日間で延べ3090人のボランティアを集めた。ただ、対岸の須坂市側は対象外。泥などの除去は手つかずで、復旧の進み具合には明らかな違いがある。

 黒岩さんによると、村山地区では100世帯余の住民でつくる組織が、河川敷に広がる計約60ヘクタールの畑を所有、管理してきた。黒岩さんは約50年間、専業のリンゴ農家を営んできたが、千曲川と支流の氾濫で、約0・7ヘクタールの畑は全て水没した。自分の畑に近づくことができたのは、市が河川敷の道路の泥を除去した10日ほど後だった。

 県農政部によると、須坂市内では千曲川右岸を中心に農地90ヘクタール余が浸水被害に遭った(21日時点)。被災後、市は住宅支援を優先せざるを得ず、農業被害の対応を本格化させるのはこれからという。「今月30日から各区を回り、農家に支援の要望を聞き取るようにしたい」(市農林課)という段階だ。

 来季の収穫に向け、年明けからリンゴの枝を剪定(せんてい)する必要があるが、復旧がままならないまま冬本番が迫る。近くの畑は所有者が片付けるのをやめてしまったという。「(住宅などの被害が大きい)長沼の人たちのことを思うと声を上げるのは心苦しい」とためらう黒岩さん。ただ、千曲川の氾濫から既に1カ月半。「このまま取り残されてしまうのではないか...」と不安な胸のうちをのぞかせた。

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 [台風19号による北信地方の農業被害]

 県農政部によると、台風19号による北信地方の15市町村の農業被害額(21日時点)は計329億9800万円に上る。施設や機械などを除く農作物と農地に限ると、被害額は長野市が100億8900万円、中野市が38億3200万円、須坂市が14億5500万円。5センチ以上の泥が堆積した果樹園は6市町の810ヘクタールで、長野市は449ヘクタール、小布施町は143ヘクタール、中野市は102ヘクタール、須坂市は81ヘクタールなど。泥が堆積したままでは根が呼吸できず、木が枯れる恐れがあるという。

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