男性が所有、宅地開発された土地。周辺が埋蔵文化財調査の対象になった=長野市

埋蔵文化財の発掘、お金は誰が負担?文化財保護法に規定なし

2020年03月 6日掲載

 「埋蔵文化財の発掘費用を地権者が負担するのはおかしい」。長野市の男性(73)からこんな疑問が本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に寄せられた。所有地を含む土地の開発に伴い市から発掘費用を請求され、約35万円を支払ったという。「出土品が自分の物になるわけでもないのになぜ...」と男性。調べてみると、文化財保護法には発掘調査の費用負担について明記されていないなど、制度の課題も浮かんできた。(木暮有紀子)

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 男性は宅地開発などに関する100枚以上の資料を見せながら「いまだに悔しいし、やるせない」と振り返った。所有地一帯に開発話が持ち上がり、業者と契約を結んだのは2009年。後になって業者側から「埋文の発掘調査が必要で、地権者にも費用負担が生じる」と聞かされた。

 6年後に調査が始まり「負担額の目安は110万円」とされたが、調査終了まで確定せず不安が募った。結局、男性は所有する約1600平方メートルの調査費用を支払った。

 男性の土地からは弥生から平安期にかけての遺構や遺物が出たが、土器や石器といった遺物は遺失物として届け出た後、最終的に市の所有となった。納得いかない様子の男性に対し、調査を実施した市埋蔵文化財センターは事前に最大負担額の目安を示すなど「説明責任を果たすよう努めてきた」と理解を求める。

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 文化庁によると、埋蔵文化財は国民共有の財産で、本来「土の中で保存しておく物」。文化財保護法や同庁の通知は、開発で保存できなくなる場合、国や自治体が記録作成のための発掘調査を指示できる、と定める。

 ただ、発掘費用について明記はない。文化庁は土中で保存状態にある物を掘り返すのだから、事業を進める側が負担すべきとの考え方に基づく―と説明。費用負担はあくまで行政指導による協力要請で、支払わなかった場合の罰則はない。

 こうした曖昧さから「われわれが知らないうちに壊されている埋蔵文化財があるかもしれない」と懸念するのは、文化財保護制度に詳しい山梨学院大名誉教授の椎名慎太郎さん(79)=甲府市。千葉県船橋市で2014年、費用負担を拒んだ業者が強引に開発を進め、縄文時代の貝塚が破壊されてしまったことがあったという。

 現状では、負担を迫られる事業者や地権者側もすっきりしない上、埋蔵文化財保護の観点からも課題があるといえそうだ。

 椎名さんは「埋蔵文化財を巡る法制度は1950年代から変わっていない。法に事業者の費用負担を明記し、同時に費用への補助も拡充した方がいい」と指摘。「(開発で)文化財がむやみに破壊されないよう、届け出義務に違反した場合にも罰則を規定すべきだ」と訴えている。

 [埋蔵文化財]

 土の中に埋まっている文化財。住居跡や古墳などの遺構と、石器や土器などの遺物がある。文化庁によると、埋蔵文化財があるとみられる「包蔵地」は全国で約46万カ所、県内では2016年3月時点で1万4260カ所。包蔵地で土木工事を行う場合、文化財保護法などにより、事業者は着工の60日前までに自治体に届け出なければならず、自治体は事業者に発掘調査を求めることができる。県内では18年度、339件の調査が行われた。

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