児童の通う小学校が昨年出した保護者向けの便り。柔軟剤の香りなどが苦手な人への配慮を求めた

子どもの服から「移り香」が...母親の悩みとは

2020年03月23日掲載

 「柔軟剤のにおいが苦手です。子どもの服に他の子からのにおいが移り、洗濯しても落ちません」。松本市内の小学校に長男が通う40代の女性から本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班にこんな声が届いた。学校に相談し、保護者向けに注意喚起の文書を出してもらったという。調べてみると、人工的な香りで体調を崩すといった「香害(こうがい)」に関する相談やトラブルは、全国的に増えているようだ。なぜなのだろう。(赤田平祐)

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 女性の家庭を訪ねた。以前から香りに敏感で、洗濯では余計な香りが付かないクエン酸を使っている。だが、長男が小学校に通うようになり、持ち帰る運動着や給食着などから柔軟剤の香りがするように。ほかの児童と接するうちに移ったようだった。

 多くの家庭が使っているため「苦手と言うのもはばかられる」と我慢してきたが、耐えかねて昨年、学校に相談。学校側は12月、柔軟剤について「苦手な子もいるため、給食着や運動着などから強い香りが漂っていないか、ご配慮をお願いします」との便りを保護者向けに出した。

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 消臭剤や柔軟剤などに含まれる強い香り成分に反応し、体調を崩す「化学物質過敏症」。頭痛や吐き気、呼吸困難など症状は多岐にわたる。そこまでいかなくとも、この女性のように感じる人は少なくないようだ。横浜市の認定NPO法人「化学物質過敏症支援センター」には年間2千件以上の電話相談が寄せられ、9割が柔軟剤などの香りに関する内容。広田しのぶ事務局長は「ここ数年、香りを巡る相談が増えた」と言う。

 中信地方の別の女性は3年前、柔軟剤や香水の香りで意識がもうろうとし、医療機関で化学物質過敏症と診断された。以来、買い物はインターネット通販中心。外出しても人と擦れ違う際は息を止める。「家の中に閉じこもって生きていくのかな」

 一方、香りを楽しんで生活している人も多い。松本市のドラッグストアで柔軟剤を選んでいた30代の男性会社員は「体臭よりも柔軟剤の香りの方が良いと思っていました。エチケットのつもりだったんですが...」と困惑する。

 柔軟剤メーカーにも考えを聞いた。大手のプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G、神戸市)は「香りを抑えた商品も販売している。香りの感じ方には個人差が大きく、周囲に配慮しながら使っていただければ」(広報渉外本部)とする。

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 こうした中、自治体レベルで「香害」を課題と捉え、対策に取り組む例も出てきた。安曇野市教育委員会は、市議会一般質問で取り上げられたのを機に、2018年7月、市内の全小中学校の保護者に文書を配布し、柔軟剤や洗剤、香水などの使用に配慮を求めた。

 過敏症などを専門に扱うクリニック院長で、北里大名誉教授の宮田幹夫さん(83)=東京都=は「化学物質ゼロの生活は難しく、誰でも化学物質過敏症を発症する可能性がある」と指摘。発症した人が自宅にこもりがちになることも課題という。

 身の回りに香り付きの商品があふれる時代。「皆さん、いい香りと思って使っているのだと思います。ただ、中には本当に苦手な人もいることを知ってほしい」。松本市の女性はそう訴えた。

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