父親が生前に愛用していたテレビ。形見として女性が大切にしている

父との別れ、心残り...葬儀に県外親族招けず「コロナなければ」

2020年05月22日掲載

 新型コロナウイルスの感染防止が呼び掛けられる中、父親がいた長野市内の高齢者施設が面会禁止となり、満足いく形で父親をみとることができなかった市内の女性(58)が、本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に体験や思いを打ち明けた。県外にいて葬儀に出席できなかった親族もいた。「コロナがなければ」。行き場のない気持ちを抱え、亡くなる直前の父親のことを考える日々だ。

   (島田周)

 女性の父は4月18日午前、施設内で呼吸器不全のため亡くなった。86歳。17日午後、容体の急変を知らされて駆け付けた女性は、最期に父の顔を見ることこそできたが、入所した2月下旬から約1カ月半の間、感染対策で面会は禁じられ、言葉は交わせないままだった。

 50代で脳出血を患った父親は左半身にまひが残り、携帯電話も満足に使えなかった。女性は夫と暮らす市内の自宅から実家に足しげく通い、後遺症と向き合う父親と苦楽を共にしてきたという。

 「『なぜ来てくれない』と家族を責めながら、亡くなったのではないか」。そんな思いが拭えないでいる。昨年8月から今年2月まで、誤嚥(ごえん)性肺炎の治療で市内の病院に入院した際には毎日のように見舞いに訪れていた。それだけに心残りが大きい。

 葬儀も思い通りにはいかなかった。女性の長女はさいたま市で医療関係の仕事をしており、移動が制限されていた。葬儀には出られず、テレビ電話の先で祖父を思って泣いた。県外の親族の出席も断った。女性は「仲が良かった父の兄弟も満足なお別れができなかった」と悔やむ。

 県内の葬儀会社によると、緊急事態宣言発令を受け、県外在住の親族に「無理に出席しないで」と助言した事例は少なくない。市内の寺の住職は「(葬儀に出席できず)自分を責める必要はない。死者を弔う気持ちを共有し、心の落ち着かせどころを探ってほしい」と語る。

 今は女性の母が1人で暮らす実家には、父親が愛用し、入院や入所先に持ち込んでいたテレビが残された。学生時代、ラグビーに打ち込んだ父。昨年のラグビーワールドカップの観戦を楽しんでいた姿を思い起こす。

 「もっと早く会わせてほしかった」。父が亡くなった当初は、そんなわだかまりがあった。だが、施設内での感染を防ぎつつ、日々の仕事をしてくれている職員のことを考え、今は「誰かのせいではない」と思っている。

 亡くなる前、父親の目をのぞき、気持ちが通じたと感じる瞬間があった。「それが唯一の救いです」

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