免許返納、自筆じゃなきゃ駄目?手の不自由な男性、一時受け入れられず

2020年11月 5日掲載

 長野市の男性(65)が運転免許証を自主返納しようとした際、警察署の窓口で署名を求められたが、病気の影響で字が書きづらく、いったんは返納を諦めた。「字が思うように書けないのに...」。本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に男性からそんな声が寄せられた。取材をすると、署名は必ずしも必要ではなく、代筆や押印も認められていることが分かった。男性は「配慮がないと、返納する人が減ってしまわないか」と懸念している。(藤森未知也)

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 男性は頸椎(けいつい)椎間板ヘルニアを患い、手の神経が圧迫されている。今年6月から指先の力加減が難しくなりうまく書けなくなったという。18歳から車に乗っていたが、ちょうど運転免許更新の時期を迎えたため、このような状態で運転するのは危ないと考えて返納を決意した。

 長野中央署(長野市)を訪れたのは9月29日昼。窓口で返納を申し込むと「運転免許取消申請書」を渡され、署名を求められた。字がうまく書けないことを伝えたが「どんな字でもいいので書いてください」と担当職員。付き添いの女性の代筆を希望しても、自筆以外は受け入れてもらえなかったという。

 こうした対応に男性は返納する気持ちがなくなり、その場で申請書を破り捨てて帰ったという。「警察は運転に不安があれば返納しようと呼び掛けているのに、今回の対応はおかしい」。署名一辺倒の対応で返納手続きができないのは矛盾していないか―。男性は憤る。

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 なぜ、運転免許証の返納手続きでは署名が重視されるのだろうか。免許更新などの業務を担当する県警東北信運転免許課に尋ねると、「返納する」という本人の意思確認のため、原則は自筆署名が必要との説明だった。

 返納手続きで自筆署名にこだわるのには理由があるようだ。高齢になり、交通事故を心配した家族が主導して返納するケースなどがあり、後になって本人が「返納を取り消したい」と申し出てトラブルになるようなケースが少なくないという。

 ただ、警察庁は2015年8月に警視庁や各道府県警に通達し、返納手続きに関して申請者の状況に応じた受理を求めた。代理人による申請も可能だ。何らかの理由で署名できない場合は家族らの代筆や押印も認めている。

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 長野中央署によると、今回のケースは当時、男性が申請書の署名欄にどうにか名字を書いてくれたので受理しようとしたが、男性が先に帰ったので手続きを進められなかった。交通課は「今回の件を受け、申請者の状況に合わせて要望を聞き、その上で対応するようにしたい」とする。

 その後、男性は同署から連絡をもらい、10月7日に同じ会社で働く部下の女性と再度訪れて改めて返納した。その際は女性の代筆で返納できたという。男性は「最初から代筆でも可能という説明をしてもらえれば、二度も来る必要がなかった。一人一人に寄り添った対応をしてほしい」と話している。

 [運転免許証の自主返納制度]

 加齢に伴う身体機能や判断力の低下で運転に不安を感じる人らが自主的に運転免許証の取り消しを申請する制度。1997年に道路交通法改正で制度ができ、98年に施行された。県内では長野南、佐久、塩尻の各署以外の警察署、北信、東信、中南信の各運転免許センターなどで申請できる。2002年から希望する返納者に対し、公的な身分証明書として利用できる「運転経歴証明書」も発行している。県内の返納件数は18年が7209件、19年が9575件で、今年は9月末時点で6439件。

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