4月の参院県区補選で使われた千曲市の投票所入場券。以前あった性別欄は削除した

選挙事務 性的少数者への配慮は?

2021年10月 1日掲載

 衆院選が今秋に迫る中、中信地方の60代女性から「県内の選挙事務でトランスジェンダーへの配慮はどうなっているのでしょう」と、本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に声が寄せられた。例えば普段は女性として暮らしていても、戸籍上は男性の場合がある。その事情を周囲に知らせずに暮らしている人には、投票所での本人確認で性別の「不一致」が知られてしまう不安があるという。取材すると、投票所での対応などに課題が浮かんだ。(牧野容光)

■精神的な負担に

 トランスジェンダーは、身体的性別と自身が認識する性別が一致しない人の総称。この女性には中学校時代にトランスジェンダーの友人がいて、当事者の苦悩を間近に見てきたという。

 当事者に取材すると、確かに一部の選挙事務のやり方は、精神的な負担になっているようだ。取材に答えてくれたのは松本市の長岡春奈さん(62)。出生時の身体的性別は男性だったが、性自認は保育園の頃から女性だった。

 長岡さんがまず指摘したのは、投票所入場券の性別欄だ。長岡さんは9年前に戸籍上の性別を女性に変更したが、変更せずに心と体の事情を秘密にする当事者もいる。そうした人にとって入場券に記された戸籍上の性別を、選挙事務に携わる自治体職員が目にすることは「心理的抵抗が非常に強い」と訴える。

 県選管によると、入場券の交付は市町村選管の事務。県内はどうだろう―と記者が県内19市に尋ねたところ、4月の参院県区補選の際に性別欄があったのは飯山市だけだった。飯田市は参院県区補選と同日の市議選から削除。千曲市と須坂市は2018年の県知事選から、投票者の性別を選管側だけで識別できる特殊な印字に切り替えたという。

■県外に参考例あり

 一方、長岡さんは投票所での本人確認にも配慮を訴える。入場券の氏名から推測される性別と本人の外見が一致せず、投票所の担当者から「本当に本人ですか」などと問い詰められる事例があるという。地域の住民と顔を合わせる機会も多い投票所。長岡さんの知人には、トランスジェンダーだと知られるのが怖くて投票を諦めた人もいる。

 南信地方の市選管担当者は「夫婦間で入場券を取り違えるケースなどを防ぐため、本人に性別を確認したことがあった。トランスジェンダーへの配慮は意識の中になかった」と打ち明ける。

 北信地方のある市選管は、本人確認のため入場券の氏名を読み上げている。取り違えやなりすましなどを防ぐ目的だが、長岡さんは「名前から戸籍上の性別が推測されるのでやめてほしい」と話す。

 この点、東京都足立区の対応が参考になるかもしれない。以前は入場券の氏名を読み上げて本人確認をしていたが、「抵抗感のある当事者がいる」と3月の区議会で指摘が出たという。

 そこで7月の都議選からは、職員が入場券の氏名欄に手を添えて「こちらに記載の本人さまでよろしいでしょうか」と確かめている。区選管の石鍋敏夫事務局長は「確認している内容は同じ。特に不都合はない」としている。

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〈トランスジェンダー〉 出生時の身体的性別と自身が認識する性別が一致しない人の総称。2004年施行の性同一性障害特例法により、2人以上の医師から性同一性障害と診断され、20歳以上で結婚しておらず、未成年の子どもがいないなどの条件を満たした人が家庭裁判所に審判を請求すれば、性別変更できるようになった。ただ、要件が合わずに請求できない人もいる。

選挙事務でのトランスジェンダーへの配慮を求める長岡さん

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