投票率アップ こんなアイデアはどう?

2021年11月13日掲載

 年々低下が続く衆院選の投票率。本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班が読者に投票率アップのアイデアを募ったところLINE(ライン)やメール、ファクスで23日までに約150件の投稿が寄せられた。投票に行ったら5千円分の商品券を贈る案などさまざまで、実現済みの案も。読者の多くが問題意識を抱き、何とかして投票率を上げたいとの強い思いを感じさせたが、専門家によると、現行制度では不可能なこともあるようだ。(牧野容光、島田周)=2021年10月24日朝刊掲載

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授業の一環で! 投票で商品券! オンラインで!

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 「18歳以上の高校3年生は授業の一環で実際に投票する」。松本市の保育士宮坂英幸さん(47)はこう提案した。短大で幼児教育を学んで保育現場に出たが、「現場に出なければ実感できない雰囲気や、学びがある」との実体験に基づくという。

 佐久市の農業木内利一郎さん(73)は投票率が低かった選挙区の定数を減らす案を寄せた。実現には問題も多そうだが「選挙権は長い歴史の中で勝ち取ってきた権利。その大切さをかみしめてほしい」との真意だ。

 一方、長野市の60代会社員男性は投票に行った人に5千円の商品券を贈る案だ。「大幅な投票率アップには『アメ作戦』しかない」

 スマートフォンなどで自宅で投票できるオンライン投票を提案したのは伊那市の会社員男性(40)。「知人が多く来る投票所は、しがらみを感じる。投票したこと自体を『知られない権利』が保障されれば投票しやすくなる」と訴えた。

 長野市の壇原幸正さん(70)も、住民票を残したまま県外に引っ越すことが18、19歳の低投票率の一因と聞き、年代に限ったオンライン投票を提案。「本当に投票率を上げる気があるんかね」と、行政の動きの遅さも批判した。

 中野市の医療事務女性(42)は若年層には1人2票を配分する大胆な案を挙げた。1票の格差の観点からもハードルは高そうだが「若年層の声が政治に反映されないから、結果的に若年層の低投票率が進んでいる」とした。

 「投票所まで行く労力を考えると仕方ない」。長野市のパート杉田明子さん(59)は北佐久郡御代田町に暮らす母(93)のために郵便投票の導入を提案する。母は「こんなに年を取って投票に行くのは恥ずかしい」と話しているといい「(個人の意見を表しにくい)日本社会の在り方も問題なのかも」とした。

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■東北大・河村和徳准教授が解説

授業の一環で → 自由投票の侵害に

投票で商品券 → 民間が実施なら可能

オンラインで → 課題が多いが可能性

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 寄せられたさまざまなアイデアの実現性は―。選挙制度に詳しい東北大の河村和徳准教授は「積極的投票権保障」と「選挙制度改革」に大別できると説明。「投票率向上策を考えることは民主主義の根幹である選挙を自分事として考えること」と評価する。

 「積極的投票権保障」は、したくても投票できない人のために、郵便投票などで投票しやすくすることだ。

 授業の一環での投票もその一つ。だが、河村准教授は「単位取得と関連し、卒業するために仕方なく投票するという生徒を生み出す。これは自由投票の侵害」と指摘。「有権者になる前の高校2年生が投票所を見学するといった形にすれば投票所に行く動機付けになる」とした。

 投票した人に商品券を贈る案は「実現可能」とする。「選挙管理委員会が贈るのは公正な選挙を実現する上で問題がある」。だが、商店街がラーメンや菓子袋を振る舞う例は既にあり「民間が行動を起こす選択肢はあっていい」。

 他の案は「選挙制度改革」に分類され、実現にはさまざまな課題があるという。

 まず、オンライン投票は立会人が不在になり、なりすましの恐れがある。「国内の有権者で実施するには課題が多い」が、総務省は2020年1~2月に在外邦人を対象に実証実験をしており、実現の可能性はあるという。

 低投票率だった選挙区の議員定数削減や若年層への投票権の傾斜配分は、憲法が保障する平等権といった基本的人権を侵害し「実現は難しい」とみる。

 投票日まであと1週間。河村准教授は「政治が『人ごと』になれば独裁国家が生まれる可能性があることは歴史が証明している。一人一人が支え合って民主主義を維持していることを忘れないでほしい」としている。

【かわむら・かずのり】1971年静岡県焼津市生まれ。慶応大大学院法学研究科博士課程単位取得退学。専門は政治意識論、地方政治論。近著に「電子投票と日本の選挙ガバナンスデジタル社会における投票権保障」(慶応義塾大学出版会)。

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■上田に街頭演説「フリースポット」 産直駐車場「候補に触れる機会を」

 「この場所ご自由に街頭演説でお使い下さい」

 衆院選が公示され、上田市御嶽堂の農産物直売加工センター「あさつゆ」の駐車場に看板が立った。手書きした運営組合長の伊藤良夫さん(68)は「国政選挙は選挙区が広くて、めったに来てくれないけどね」と笑った。

 「この場所」は、街頭演説が自由にできる「演説フリースポット」。党派に関係なく、街頭演説の場所を提供する試みだ。2006年4月、旧上田市と小県郡丸子町、真田町、武石村の合併に伴う上田市議選の時に始めたという。

 選挙カーはあっという間に通り過ぎる。伊藤さんは、演説フリースポットを各地に設けることで有権者が候補に触れる機会を増やし、結果的に投票率アップにつなげる案をコエチカ取材班に寄せた。

 伊藤さんは元丸子町議。「だから候補の気持ちも分かる」。演説をしたいけれど、場所の確保は一苦労。人が集まるスーパーを見つけても「うるさい」と苦情が寄せられることもあるという。

 流ちょうでも当たり障りのない内容だったり、しどろもどろでも自分の言葉で具体的な政策を訴えたり、演説には候補の真剣さや人柄が出る。「一度でいいから候補を見てほしい。顔つきや身ぶりで見極められることも多い」

 ただ、公選法では国または地方自治体が所有、管理する建物では基本的に連呼行為などが禁止されている。「あさつゆ」の建物と隣接の駐車場は市有地。だから伊藤さんは念のため、向かい側に借りた駐車場にスポットを設けた。

 大音量だと迷惑が掛かりそうな学校や病院などの近くは避けて「どんどん開放すればいい」と伊藤さん。東北大の河村和徳准教授も「選挙を住民の手に引き戻す取り組み」と評価している。

東北大の河村和徳准教授
「演説フリースポット」の看板を設置する伊藤さん=10月21日、上田市御嶽堂

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