鐘を見上げる立尅寺の土肥住職=富山県滑川市堀江

除夜の鐘、昼にしました 富山県、変わる年越し行事

2022年01月18日掲載 (北日本新聞社)

 「除夜の鐘を昼に突く寺が富山県内にある」。こんな情報が「あなたの知りたいっ!特報班(知りとく)」に寄せられた。背景には、少子高齢化による参拝者の減少や寺の負担増があるという。知っているようで知らない年越しの風物詩の来(こ)し方行く末を探った。(北日本新聞・松下奈々)

■夜は階段凍る... 高齢化進む中で対策

 浄土真宗本願寺派の本願寺富山別院(富山市総曲輪)や曹洞宗の瑞龍寺(高岡市関本町)など、県内の多くの宗派の寺では、大みそかの午後11時台に鐘を突く。108の煩悩を打ち払う意味があるといわれる。
 全日本仏教会(東京)によると、近年、全国で除夜の鐘を中止したり、昼間に変えたりする動きが出ている。都市部では、夜中の鐘を騒音と捉えられたケースもあるという。
 真宗大谷派の立尅寺(りゅうこくじ)(富山県滑川市堀江)は半世紀以上、深夜に鐘を響かせてきたが、2021年から午後2時半に変更。少子高齢化で参拝者が減ったためだ。12月31日深夜に訪れる人は年々減り、20年は15人ほどだった。
 土肥真人住職(61)は「明るい時間の方がお年寄りや子どもたちも訪れやすい。多くの人に寺に来てほしい」と願う。深夜の鐘突きは住職ら家族の負担も大きい。鐘へと続く石階段は凍結や雪で滑りやすく、危険も感じていた。「今後、年を重ねていくことを考えると昼の方が現実的だと思った」とも語った。
 真宗大谷派の玉永寺(富山市水橋小出)も2017年から毎年、昼間に鐘を突く。石川正穂(まさほ)住職(60)は「参拝者が増えた。子どもを連れた家族が来てくれるようになった」と手応えを感じている。
 一方、夜中の鐘に情緒を感じる人もいる。曹洞宗瑞龍寺の四津谷道宏住職(52)は「(都市部で)鐘が騒音と捉えられるのは寺と地域のつながりが薄れているんだと思う」とした上で、「こちらでは毎年楽しみにしていただいており、苦情は聞いたことがない」と話した。
■昭和初期、ラジオで普及?
 富山県内に多い浄土真宗2派の本山では12月31日夜、除夜の鐘は鳴らさない。真宗大谷派本山東本願寺(京都市)は「親鸞聖人の教えでは、煩悩を払うという考え方はしない」と説明。本願寺派本山西本願寺(同)も、鐘は法要の前や平和を祈る時に鳴らすものとした。
 本山では行わないのに、なぜ各地に広がったのか。「鉄道が変えた社寺参詣」(交通新聞社)の著書がある神奈川大の平山昇准教授(近現代史)は「初詣は鉄道の発達、除夜の鐘はラジオを通じて全国に広がった比較的新しい伝統」と指摘する。
 平山准教授によると、初詣は、閑散期となる冬の鉄道利用を促そうと考えた鉄道会社の戦略などにより普及した。除夜の鐘は明治、大正期には忘れられていたが、昭和初期のラジオ中継で再び脚光を浴びた。国内最大級の鐘を突くことで知られる浄土宗総本山・知恩院(京都市)も「除夜の鐘の最古の記録は昭和3、4年ごろ。ラジオ局の要請だった」と明かした。
 平山准教授によると、寺の鐘を中継する前は、ラジオで年明けとともにニワトリを鳴かせる試みもあった。平山准教授は「昭和初期はラジオの黎明期。音でできることを探る中で、鐘やお経など音が重要になる仏教に注目したのではないか」と推測する。

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