「強度行動障害」 少ない通所先 受け入れ側の事業者「必要なマンツーマン支援。職員増やせず難しい」

2022年04月18日掲載

■自閉スペクトラム症のある人らの一部 頻繁に自傷などの行為

 「強度行動障害」がある人の受け入れ先が見つからないケースが目立つ―。松本市の介護福祉士金沢洋一さん(59)が本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に情報を寄せた。聞き慣れない障害だが、重い知的障害がある自閉スペクトラム症の人らの一部に見られるという。県内の当事者や通所事業所に取材すると、職員不足など受け入れ側の事情が浮かんできた。(藤田沙織)

 金沢さんが支援する松本市の百瀬拓哉さん(29)も強度行動障害者の一人だ。市内の通所事業所に平日の週5日通っているが、通所先が決まったのは特別支援学校高等部を卒業する直前だった。

 両親と妹の4人暮らし。自傷行為があり、皮膚がめくれて出血しても引っかき続けてしまう。トイレでズボンを下ろした際などにかき始めることもあり、目が離せない。

 血が付いた服を洗うため、母洋子さん(57)は1日3回の洗濯に追われる。通所できなければ平日昼間は洋子さんが一人で面倒を見ることになる。負担は大きく、通所先がどうしても必要だった。

 百瀬さんは通所先を探そうと高等部2年の頃、ある通所事業所の実習に参加した。だが、すねを引っかいて出血し、床に血だまりが。すると、担当者からこう告げられた。「受け入れられるのは週2、3日まで」

 事業所も職員の人数が限られ、週5日対応するのは難しかったようだ。洋子さんは「通所先がなかなか見つからず不安でした」と振り返る。

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 金沢さんは「障害が重い人ほど通所先が見つかりにくい」と指摘する。職員の負担が重く、受け入れを敬遠する施設も目立つという。

 金沢さんによると、週5日通える先がない強度行動障害者は松本地域に少なくとも7人。特別支援学校を卒業後、7年間受け入れ先が1カ所も見つからなかった人や週1日しか通えない人もいる。

 事業所側にも事情を聴いてみた。松本市の障害者支援施設「あい・アドバンス今井」の施設長、滝沢武夫さん(57)は強度行動障害者をできるだけ受け入れたいとしつつ「マンツーマンの支援が必要で、職員を増やさなければならず難しい」と話す。

 同施設は計60人が利用。強度行動障害などで1対1の支援が必要な人は2、3人いる。だが、平日昼に勤務する職員は12、13人で法定の配置基準ぎりぎり。強度行動障害者を受け入れると介護報酬が加算されるが職員1人分の給与は賄えない。

 同市の障害者支援施設「四賀アイ・アイ」は正規職員を常に募集しているが集まらないという。強度行動障害者への対応では職員がけがをする場合もあるとし、管理者の赤羽信行さん(53)は「落ち着いて暮らしてもらうためにも良い支援態勢が必要だが、人員が足りない」。

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 こうした状況を行政はどう捉えているのか。県障がい者支援課は「(態勢は)十分ではない」と認める。支援者を育てる研修会の開催や、緊急時の受け入れ先を確保する拠点整備を進めているが道半ばだ。同課は「現場は厳しいと聞く。地域で受け入れる仕組みづくりを後押ししたい」とする。

 強度行動障害者を全国から受け入れている国立のぞみの園(群馬県高崎市)の研究部長、日詰正文さん(56)によると「受け入れ希望がかなわないのは全国的な状況」だ。受け入れのスキルを持つ人材や、一貫した支援ができる態勢の未整備が背景という。

 日詰さんは受け入れに積極的な一部職員に負担が集中した結果、職員が離職してしまう例もあるとし「事業所を超えて職員がつながり、支援方法の情報を共有し、助言し合えるチームをつくることが重要」と話す。

 ただ、金沢さんは地域の連携が育つには時間がかかると感じている。「当事者や家族にとっては毎日が戦争のようなもの。まず公助で支えてほしい」とし、当事者がいつでも利用できる態勢の整備を求めている。

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【強度行動障害】 自分の体をたたいたり食べられない物を口に入れたりして本人の健康を損ねる行動や、他人をたたいたり物を壊したりして周囲の人の生活に影響を及ぼす行動が著しく高い頻度で現れる状態。思春期に悪化し、高齢になると落ち着く場合が多い。県障がい者支援課が2020年に行った調査によると、県内の入所施設にいる障害者で強度行動障害がある人は363人。

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