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ロビーで常連客と会話する関谷さん(左)=7日、栄村

 2011年3月12日、最大震度6強の県北部地震で被災した下水内郡栄村。復興途上の村内で住民らの大切な憩いの場の一つになっているのが、温泉宿泊施設「トマトの国」だ。有志でつくる企業組合「ぬくもり」が村振興公社から経営を受け継ぎ、この4月で1年になる。消費増税や新型コロナウイルスの感染拡大などで経営は厳しいが、震災前から変わらないぬくもりの場を守りたいと、スタッフも住民も願っている。

 「今日も気持ち良かった。こんなにいい温泉、他にないよ」。日も陰り始めた夕方、ロビーでくつろいでいた風呂上がりの常連客らが、ぬくもり代表理事の関谷聰さん(66)に声を掛けた。「期待に応えないといけないなあ」。関谷さんはうれしそうだ。

 常連の中には年に300日以上通う人もいるという。周りから長老と親しまれる桑原賢治さん(93)もその一人。赤茶に少し濁って湯冷めしない泉質が気に入り、震災前から20年近くほぼ毎日通っているという桑原さんは今、震災復興住宅で暮らしている。7年ほど前に入居したが、風呂場は「一度も使っていない」。自宅は全壊した。ひなびた集落の風景も一変した。だが、その湯は変わらない。

 もう一つ、変わらないのが常連客との会話だ。「今年は暑い日が続くなあ」「野菜の出来はどうだい」...。たわいのないやりとりといつもの湯が、汗と一緒に震災のストレスも洗い流してくれている。

 「この温泉は生活の一部みたいなもんだ」。桑原さんと同じ思いの住民は少なくない。村や隣接する新潟県津南町の20人ほどでつくる常連グループ「愛湯会(あいゆかい)」のメンバーは、日頃の感謝も込め、定期的に施設周辺の草刈りを続けている。会長の渡辺隆幸さん(66)は「みんなでわいわい楽しみながら、地域の宝を支えているんだよ」と言う。

 経営は厳しい。赤字続きで解散を余儀なくされた村振興公社からバトンを受けたぬくもりも、昨年9月の中間決算では356万円の赤字。10月以降は増税による維持経費増や新型コロナウイルスの影響によるキャンセル続きが追い打ちを掛ける。

 状況を何とか打開しようと、関谷さんは4月以降、インターネットのクラウドファンディングを活用した資金集めやイベント企画などの誘客強化を始めようとしている。「この1年やってみて、ここがいかに愛されているかを実感している」。パートを含め5人のスタッフとともに「地域の声にしっかり耳を傾けて、みなさんに喜んでもらえる施設にしていく」と震災後の日々を乗り越えていこうとしている。

2020年3月13日掲載

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