怪しいTV欄

2018.7/01

光州事件 情報統制の恐ろしさ

  何百人もの市民が死傷しても、政府が情報統制を徹底すれば、国内の人でさえそれを知ることはできない。大昔の話ではありません。ほんの38年前の、隣の国のできごとです。

 NHKBSプレミアムで放送された「アナザーストーリーズ その時、市民は軍と闘った~韓国の夜明け 光州事件」を見ました。韓国南部の光州で、空挺(くうてい)部隊を中心とする戒厳軍が、市民に対し発砲や激しい暴行をした事件。番組は、この事件を題材にした、長野県内でも公開中の韓国映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」が日本でヒットしていることにまず触れ、映画の映像も使いながら進んでいきます。

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 1980年5月18日から10日間のできごと。日本では路上で踊る若者の集団、竹の子族の様子も映像で振り返ることができるのに、この事件の映像や写真は限られています。朴正熙(パクチョンヒ)大統領暗殺後、クーデターによって陸軍の司令官だった全斗煥(チョンドファン)が政権を掌握。当時は戒厳令下で情報が統制されていました。

 いったい何が起きていたのか。昨年、現地での記念式典で文在寅(ムンジェイン)大統領は、自らの政権は「光州民主化運動の延長線上にある」と語り、真相の究明を約束しました。

 番組は、当初は民主化運動に関わっていなかった家具職人、鎮圧で暴力を振るった兵士、そして息子を残虐行為から守ろうとした母親、三者の証言から真実を探ろうとします。

 始まりは日曜日。20歳の家具職人は休日を楽しもうと大通りに出かけて、ただ若者であるというだけで空挺部隊から暴行を受けます。この日だけで400人以上が軍に連行されました。街に怒りが広がっていきます。

 軍には大学を休学し、徴兵された兵士もいました。こちらも若者です。抵抗する者は北朝鮮に先導された共産主義者だ、という指導に疑問をもっていたはずが、市民の抵抗で同僚が死傷すると怒りを深めていきます。

 市民への10分間にわたる一斉射撃。その始まりは、軍が流す愛国歌が響き終わった時。そして、抵抗する市民の士気を高める役割を果たしたのもまた、同じ愛国歌でした。国を愛しみんなの生活を守る、という思いは同じなのに。愛国、その困難を象徴していると思いました。

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 そして街の大通りで隣人たちが暴行され、殺される中、母親によって大切に守られた14歳の男の子。成長して、大学進学とともにソウルに上京すると、やがて光州事件について知ることになります。彼は民主化運動に身を投じました。

 87年6月、民主化を訴えるデモの渦中で、催涙弾を頭部に受けた学生の死が、反政府運動を韓国全土で燃え上がらせます。この学生が光州で14歳だった、李韓烈(イハンヨル)です。

 彼は、自分より幼い子も命を落としたのに、事件を知らなかったことに強い贖罪(しょくざい)の意識があったと母親は振り返り、彼を守った自分は間違っていたのではと自問を繰り返します。

 光州事件当時、情報がきちんと伝えられていたら。報道が役目を果たせていたなら。この母親の苦悩はもちろん、事態も変わっていたのではないか。正しい情報が伝えられない恐ろしさを、いくつもの側面から感じました。