怪しいTV欄

2018.9/23

大学寮を巡るさまざまな「壁」

 7月にBSで放送された地方局制作のドラマが、脚本家や出演者の有志によるネット上の広報活動などを経て評判が広まり、今月17日にNHK総合で放送され、その後もオンデマンドなどで視聴者を増やしている。

 という、新しい広まり方をしている「ワンダーウォール」を見ました。「京都発地域ドラマ」とタイトルに添えられたこのドラマは京都大学の吉田寮に取材していて、実際に吉田寮を撮影した映像が含まれています。

 吉田寮については、まさに存亡の機にあります。築100年を超える日本最古の学生寮。寮生の自治によって運営されてきました。大学側は老朽化を理由に取り壊しを計画、寮生の全員退去を求め、寮生は継続を求めて長らく交渉を続けている。

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 ドラマは吉田寮に取材しつつ、実話のドラマ化とは一線を画すものになっています。

 京都にある京宮大学の自治寮、近衛寮で生活する寮生の群像劇。そこでは、明文化されたルールとは言えない、生活の中で編み出され、代々受け継がれてきた暮らし方があります。敬語は禁止、トイレは男女あるが本人の利用したい方でよし、議論は全会一致に至るまで話し合う、など。そして、寮生は各自の好きな場所で寝起きして、雑魚寝が当たり前。同じ釜の飯を食うのはもちろんのこと、ちょっとした食べ物を分け合う場面も繰り返し登場します。

 寮生たちがここ10年、向き合ってきたのが、取り壊し問題。大学側と交渉を続け、事務室に陳情を重ねてきたのですが、そこにある日壁が作られました。

 壁を隔てて、要望を伝えようとすると、窓口を通して応対するのは事務員1人。担当者がいない、の一点張りです。壁ができても聞こえているはずなのに、事務室の職員たちは壁の向こうを外界とみなして、窓口からしか接触しようとしない。

 果たして交渉の行方はどうなるのか、ではなく、ここで描かれるのは大学側の対応が変質したことで明らかになる、寮生の悶々(もんもん)や対立です。

 諦めてしまう者、見て見ぬふりをする者、新たなルールを求める者、怒りを膨らます者、この寮での生活に何を期待していたのかに立ち返る者。

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 少子化による学生の減少、直接的に言えば収益の減少という今後が誰の目にも明らかな今、大学のあり方について問う声が大きくなっています。そのことはもちろん、ドラマの冒頭に、ベルリンの壁の崩壊や、国境に壁を造るというトランプ米大統領の演説が挿入されていて、タイトルのウォール=壁が、現在の社会に立ちはだかる対立や拒絶を意味するのは明らか。脚本を書いた渡辺あややスタッフも、インタビューなどでそれを語ってもいます。

 見ている私は、時に落書きされるのが壁ですから、ネットの掲示板=ウォールのことも思い浮かべました。共鳴し合い、面白いルールや共通言語が共同制作される場であり、罵(ののし)り合いや排他が増幅する場でもあり。

 そこでどう人との関わりに希望を持ち続け、時に諦め、時に譲り、批判すべきは批判し、対話や議論を続けていくか。考え続ける以外の方法は、ないのだろうと思います。めんどくさいけれど。