怪しいTV欄

2019.3/31

間違った前提、悲惨な事態を招く

 人の命を救うための事前対策が、十分に用意されていなかった。事前に用意されたマニュアルを順守して、対応が遅れた。遅れるどころか、対応がなされなかったことさえも。信念を持ってマニュアルからの逸脱を提案、多くの命を救った人たちがいた。

 そして、そもそも事前に用意されていた対策は、前提が間違っていた。だから、機能しなかった。

 これらすべての状況を端的に言い表し、「安全神話のもとに築かれた医療体制は、崩壊していた」と指摘するナレーションが少しだけ表現を変えて2度登場しました。前回取り上げた「誰が命を救うのか医師たちの原発事故」の、NHKBS1で放送された拡大版でのことです。

   ◆  ◇

 東京電力福島第1原発の事故発生直後からの8日間に、現地に向かった医師たちが自ら撮影した3000に及ぶ映像と写真から、いつどこで何が起きていたかを克明に解明する番組。前回の「ETV特集」版では、当事者による写真や映像などの一次資料によって、知られざる事実を明らかにしていました。

 緊急医療体制の崩壊、です。

 そして拡大版では、なぜ崩壊したのかを告発します。

 事故が起きた場合、原発の近くにある病院から、自力で動くことのできない重病の患者たちをどこへ、どう避難させるのか、対策はありませんでした。

 事故が起きた場合、現場で負傷した原発作業員や自衛隊員の受け入れ先についても、取り決めがありませんでした。

 事故が起きた場合、避難についてさまざまな指令を出すはずのオフサイトセンターは、人的にも機材的にも準備が十分でなく。指揮系統が混乱し、原子力安全委員会の医師が事故の被害の大きさから判断、投与を助言したはずの安定ヨウ素剤は、避難した人たちに届けられませんでした。「服用されるはずだった」という事実だけが残され、今も福島の人たちを不安が苦しめています。

 事故が起きた場合、と繰り返したのは、8日間に起こった「緊急医療体制の崩壊」の背景に、大規模な原発事故は起きないという前提が見えるからです。その前提が間違っていた。いわゆる、安全神話です。でもその間違った前提が、原発の開発費用から日々の運営に至るまで、すべてを貫いていました。

   ◆  ◇

 医療体制が崩壊していた事実に衝撃を受けながら私は、小説「2001年宇宙の旅」を思い出しました。コンピューターの誤作動が乗員の命を奪いますが、その誤作動は「地球外生命などいない」という前提が事実と矛盾していたことが原因です。

 医療現場の立て直しには、広島や長崎、原爆が投下された過去を持つ地で被ばく医療の研究をしていた医師たちが、大きな力を果たしました。そして、自らの信念に基づき、命さえ懸ける構えで治療に奔走した医師たち。その多くが現在、福島の大学や医療施設で医療と後進の指導に従事していることをこの番組で知りました。

 間違った前提が、完全に改められたと証明するような対策は取られているでしょうか。廃炉への道のりは長く、危険な作業も終わっておらず、原子力緊急事態宣言は継続中です。