怪しいTV欄

2019.5/19

戦争が奪うもの、わかっていますか

 「戦争しないとどうしようもなくないですか」。こう発言した丸山穂高衆院議員は、戦争について、領土の奪い合い以外に、どれほど考えが及んでいるのでしょうか。

 発言は、北方領土四島の元島民ら日本人と現地のロシア人との交流を目的とした訪問事業のさなかのものでした。各自が営んできた暮らしを、戦争という国の争いによって奪われる。それがどういうことなのか、理解しているとは到底思えません。

   □   □

 NHKBS1で放送された「消えた祖父の謎を追う~"アメリカの敵″となった日本移民~」を見ました。

 このドキュメンタリーの主人公は、報道写真家の米国人女性レジーナ・ブーンさんです。彼女は自分の祖父が日本人であることを、長く知りませんでした。父親のレイモンドさんが、家族にも隠していたからです。亡くなる直前に言い残したのが、「君のおじいさんに何があったのか調べてくれ」。その願いを果たそうとします。

 レイモンドさんは父親の名前さえ知らない。それは3歳の時、父親の宮崎鶴寿(つるじゅ)さんが逮捕され、戻らなかったからでした。

 鶴寿さんは長崎県島原半島の出身、16歳で船員になり、船のコックの経験を生かし、やがて米国南部のバージニア州で店を持つように。麺料理が名物のカフェを営み、黒人女性と結婚、レイモンドさんと弟が生まれ、4人家族の暮らしがありました。日米開戦のその日までは。

 米国政府は、開戦に備えて何年も前から日系人や日本からの移民の動向を監視。準備は整っていたわけです。資料を調べていくと、鶴寿さんは希薄な根拠で「地域の水源に毒を入れる恐れ」という疑いまでかけられ、逮捕されていました。

 「水源に毒を入れる」と聞いて思い出されるのは、関東大震災の時、朝鮮人がそういう行動をするとうわさが立ち、記事にまでなり、多くの人々が殺されるに至った事件です。自分たちとは異なると決めた人たちを敵視するとき、隣人を急に敵視しようとするとき、人の想像は同じところにたどり着いてしまうのかもしれません。

 鶴寿さんの逮捕令状には「敵性外国人」と書かれていました。ワシントンの敵性外国人の勾留施設に送られ、その後アーカンソーの日系人強制収容所へ。そして、隔離から拡散へ政策が転換されると、中西部のシカゴに送られ、孤立した生活を送り、終戦の翌年に結核で亡くなっていました。

   □   □

 レイモンドさんは厳しい暮らしにあってジャーナリストを志し、公民権運動が高まる中で、黒人社会の声を届ける記者に。地元で新聞社を設立し、その名が通りの名に掲げられるほどの業績を残しましたが、「日本人の血が半分流れている事実」を明らかにはしませんでした。

 その娘のレジーナさんは、父親が社会の不正義と闘うことができたのは、祖父への思いがあったからだろうと振り返るとともに、自身は「黒人のためだけでなく」「社会的な弱者すべての声を」写真を通して届けたいと語ります。

 国と国との戦争は、国民とそれ以外の人を分断することでもある。その事実は、忘れることも見逃すこともできません。