怪しいTV欄

2019.6/02

国の思惑交錯「地上の楽園」の噓

 噓(うそ)をつかれた。昨夏、北朝鮮政府に損害賠償を求める訴訟を、在日コリアンら5人が日本の裁判所に起こしたことは、あまり知られていません。

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 北朝鮮は「地上の楽園」だ、という60年前の噓。食べものも家も服も、もちろん仕事も好きに選んで、豊かな生活ができる。その噓のもと、だから帰国しましょうと促され、または説得され、場合によっては強いられ、多くの在日コリアンが日本から朝鮮半島北部へ渡りました。5人も、その中に。

 「帰国事業」が告発されている、とも言えます。帰国事業の実態には不明な点が多く、それを明らかにすることも、裁判を起こした大きな狙いのひとつ。

 先月、NHKのETV特集で放送された「北朝鮮"帰国事業″60年後の証言」を見ました。日韓で、帰国事業の真相に迫る聞き取り調査が始まっています。そうした証言と、米国や旧ソ連の最近公開された資料から、帰国事業とそれによって「帰国者」に何が起きたかを、番組は探っていきます。

 1959年から84年にかけて、9万3340人が北朝鮮へ渡りました。その中には、在日コリアンの家族などとして6800人ほどの日本人も含まれます。

 この9万の在日コリアンもまた、戦前は「日本人」でした。日本人として生まれた人、人生の途中で朝鮮半島が日本の支配下に置かれ日本人になった人。しかし戦後、彼らの日本国籍は剝奪されました。ある男性は「朝鮮人と言ったらみんな嫌いやから」と当時を振り返ります。

 日本に残った在日コリアン60万人、その9割以上は半島南部の出身です。そんな彼らに、「北朝鮮は地上の楽園。祖国へ帰ろう」という声が。北朝鮮政府を支持する在日コリアンの団体、朝鮮総連による呼びかけです。58年に川崎の総連から起こり、共和国を率いる金日成は歓迎の声明を。つまり、在日コリアンからの自発的な運動だと、ずっとされていました。

 しかし旧ソ連の資料から新たにわかったのは、川崎からの要望の1カ月前、「総連が要望し、共和国の声明が続く」というプランが、金日成からソ連に伝えられていたことでした。

 日本政府も「貧しい人たちが故郷へ帰るんだから、温かく送りだす」と帰国事業を後押し。しかし岸信介内閣の外務大臣による米国の大使への説明が、米国の資料に残っていました。困窮する在日コリアンが政治的経済的に負担になっているのが現状、だから「朝鮮人を国内から排除できる」という見込みが強く支持されているのだと。

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 韓国に対する優越性を宣伝したい北朝鮮、植民地政策の結果である在日コリアンを排除したい日本。国の思惑が、多くの人を帰国船に運びました。

 船が港に着くと、乗っている人も迎える人も仰天しました。北朝鮮は天国のはずが、みんなやせ衰えている。日本で差別され骨ばかりの人が来ると思ったのに、まるで天国から降りてくる人たちみたいだ。

 植えつけられた物語は、どちらも噓。そして、帰国者を待っていたのは激烈な貧困、監視、「民族反逆者」としての収容所送り。日本での差別を逃れた先に、また差別が。

 真相の解明は始まったばかりです。