怪しいTV欄

2019.6/16

都合悪いものが「ない」ことに

 NHKスペシャル枠で放送された「天安門事件 運命を決めた50日」を見ました。

 天安門事件から30年。放送された9日は香港で、容疑者の中国本土への引き渡しを可能にする条例改正案に反対する市民のデモが起きていて。ネットにあがるデモの画像を傍らに、この番組を見ることになりました。

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 香港は中国で唯一、天安門事件の追悼集会を行うことができる場所です。徹底的な情報統制のもと、本土で生まれ育った若者は天安門事件を知りません。

 なかったことになっている。

 政権にとって都合の悪いものは「ない」ことになる、というのはわざわざ他国の例を見なくても、私たちが今まさに体験していることでもあるんですが、他人事として見ると、あらためて驚かされます。傷ついた人、人生が変わってしまった人、ましてや亡くなった人がいるのに、それが「ない」ことにされるだなんて。

 中国政府の発表では「反革命動乱で319人が死亡した」。でも、民主化を求めて集まり、やって来た兵士に野菜を配る様子が映像に残されていたりするのに、丸腰の学生や市民がなぜ、どのような経緯で自国の兵士に武力で鎮圧されたのか。番組は、当時の首相の李鵬の手記などから探っていきます。

 この事件で失脚し、15年の軟禁生活の果てに亡くなった当時の総書記、趙紫陽は若者を中心に多くの支持を集めていました。簡単に整理すると、彼は民主化と経済発展を共に進める派、李鵬は民主化に反対、最高実力者の鄧小平は改革開放路線。

 明らかになるのは、鄧小平の「200人の死が中国に20年の安定をもたらすだろう」という発言。その意志のもと、民主化を望むデモが政府に敵対する「動乱」として認知され、武力行使の道筋がつくられました。

 元兵士の証言をたどっても、市民を攻撃する明確な命令は確認できません。実弾を渡され、「広場を解放せよ」という命令のもと、発砲に至り、その混乱が暴力を呼び込んでいったようなのです。

 抗えない状況をつくり、最悪の「選択」を個人に強いる。権力は、このように使われる危険を内包しています。悔いて涙を流す元兵士。「選択」の痛みは彼の人生を黒く覆い続けます。

 あの時、世界の多くの国が中国政府を非難しました。しかし番組は最後に、当時のブッシュ米大統領が送った文書を明らかにします。「親愛なる友 鄧小平殿」「先日の先進国首脳会議の共同宣言の草案には、中国を過度に非難する文言がありましたが、アメリカと日本が取り除きました」「アメリカ議会は中国との経済関係を断ち切ることを求めていますが、私は波風を立てないよう全力を尽くします」

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 この30年、中国は経済発展と、民主化ではなく共産党への権力集中を進めてきました。IT技術の発展は監視社会到来の危険をはらみますが、むしろそれが一党独裁の中国のIT技術の先行に優位に働いてもいるという皮肉。

 今回明らかになった李鵬の手記は、香港に流出したものです。

 その香港が変えられようとしている。今、どれほど大きな分岐点に来ているのか、思い知らされました。