怪しいTV欄

2020.1/26

「クレーム」の一般化、じわじわと

 先週いっせいに報道された、人気俳優の不倫。妻も人気俳優で2世タレント、相手の女性も認知度上昇中の俳優ということもあり報道が過熱していますが、そこへ火に油をそそぐ事態となっているのが、所属事務所が出した謝罪コメントです。

 報道はほぼ事実と認め、くだんの俳優の「愚かさ、未熟さ、責任感の欠如が引き起こした事柄だと思います。どのように非難されても弁解の余地はありません」。

 所属事務所、という一般の視聴者にとっては直接の接点がない存在が、人格を表してきてのコメントに、まず驚きました。以前はあまりなかったことです。所属タレント同士の交友がトークの話題に上ることが増え、そういうトークを提供する代表的な存在、ジャニーズ事務所や吉本興業のさまざまな報道があったからでしょうか、所属事務所が以前のような透明な存在ではなくなったことを表していると思います。

 その事務所人格が、所属の俳優の人格を批判している点にも驚きます。しかも、主演ドラマが放送される前日に。ごく親しい存在がこのように評価する人物を、視聴者にいったいどんな思いで見てほしいのでしょうか。ドラマで演じる役柄と本人とは別もの、と受け取ろうにも、そこを邪魔する強い印象を与えてきます。

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 あえて本人の人格までも批判することで、守ろうとしたのはなんでしょうか。まず考えられるのは、世間からのより一層強い批判。主演ドラマを放送するテレビ局へのクレーム。そのドラマの提供スポンサーへのクレーム。また、CMに彼を起用している企業へのクレーム。

 後半の二つは、十数年前には今ほど心配されるようなものではありませんでした。ネットの時代になって、スポンサー企業へのクレームが増えてきた。窓口を簡単に検索できるし、そのほうが効果があるとも広く知られるようになったからです。

 そして同様に、所属事務所にも直接の批判が届くようになりました。今回の件に限らず、問題が報道されるとすばやく謝罪、本人の活動自粛を公表する事務所が増えてきています。活動自粛を表明すると、出演していた番組がその対応に追われることも。出ないと言った人間を出してるじゃないか、というクレームがきてしまいますから。

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 さて、ここまでの文章もそうですが、「批判」と「クレーム」、二つの言葉はあたかも入れ替え可能のように使われるのが昨今です。それ以前に使われていたのは「苦情」。

 不満を表す「苦情」とも「批判」とも違い、「クレーム」は本来、なんらかの要求をする行為を指す言葉です。サービスの提供者と消費者の間での賠償や補償の請求、など。

 「クレーム」は行為という意味も含んでいるのが厄介です。「批判」や「苦情」は受け止めて、再考するよすがにするまで。けれども「クレーム」には、対応しての行動が要求されています。

 ことは、テレビや芸能界に限りません。ただでさえ世間の目が力を持つ日本の社会に、「クレーム」という言葉が一般化したことは、じわじわと影響を及ぼしていると感じます。