怪しいTV欄

2020.10/09

痩せた心持ち どうしてなのか

 大きな金額の無駄遣いよりも、電車の乗り換えを間違えて発生した余分な10円をねちねちと悔しがってしまう。私自身も日々やっている、錯誤です。

 菅総理が、日本学術会議が推薦した新会員候補6人を任命しなかったことが報道され、議論になっています。
 
 前回は交代枠を超える人数の推薦名簿を首相官邸に求められて提出していた事実も明らかに。さらには、補充人事の際に官邸が候補者の任命に難色を示し、欠員のままになったことも1度ではなく。いずれも安倍政権下での出来事でした。

 知らなかった。かつて「形だけの推薦制であって、推薦していただいた者は拒否はしない」という政府の見解が国会でも示された学術会議の人事に、政府が「形だけでなく」関わり始めていたとは。

 しかし、この件はそれとは別の角度からも注目を集めています。いや、集めようとする動きがある、と言うべきでしょうか。

 お金です。

 菅総理は取材に対し、「現会員が後任を指名することも可能な仕組み」であることを問題視しつつ、学術会議への「国の予算が年間10億円」、だから「前例を踏襲していいのかを考えた」と話しました。

 同日、フジテレビの平井文夫上席解説委員は「バイキングMORE」で、学術会議の会員について「この人たち6年ここで働いたら、そのあと学士院というところに行って、年間250万円年金がもらえるんですよ。死ぬまで」と解説。

 この解説は、学術会議と日本学士院という別の組織をあたかも連結したものであるかのように言っていて明らかな事実誤認であり、翌日の放送で訂正と謝罪がなされましたが、放送でもネットでも「年金250万円」が広まり、「会員になるとそんなにもらえるなら、政府に選択されて当然」という声が響くように。
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 番組を作っていて、わかりづらい話を理解してもらうためによくやるのは、お金で翻訳する方法。お金に換算したり、金額を際立たせることによって、興味と納得を手に入れようとするのは、メディアの常套(じょうとう)手段。人の心をどう惹(ひ)きつけるかという意味で、在り方がメディア化してきた近年の政府にとっても、確かに有効な方法です。

 維新の大阪都構想もまた、「ムダがなくなる」利点をお金で訴えかけます。市役所をなくそう、府と市でおのおの持っている公共施設をなくそう。そうするとそのお金が浮くでしょう、と。

 「税金のムダ削減」は、「公務員の人員カットや給与カット」に手っ取り早くイメージを結びつけたほうが、ウケる。近年のそんな傾向を行政側は十二分に心得ているようです。学術会議の会員も、特別職の国家公務員ですし。

 将来を見据えて税金がどう使われるかを考えるより、公務員という、自分の生活領域ですれ違うかもしれない他人の財布が寂しくなることを期待してしまう。納める税金が安くなるのとはまるで別の話なのに。

 少なからぬ人がそんな痩せた心持ちになってしまっているのは、どうしてでしょうか。国民の実質賃金が低迷する状態を解決しようと取り組まなかったのは、誰なのか。身近な他人の財布のせいではないことだけは、確かです。