怪しいTV欄

2021.6/04

「スポーツ選手の消費者」から そろそろ...

「スポーツに政治を持ち込むなと言ってきた人たちに刺激されて、私は勝利しました」。昨年の全米オープンテニスで、警官による黒人男性の不当な射殺に抗議して、前哨戦の棄権を表明。抗議が世界に広く伝えられ、棄権を撤回して優勝を果たした大坂なおみ選手は、ツイッターにそう投稿しました。

 本欄では昨年9月、これについて「居心地悪そう。それが、日本の記者の質問に答える彼女をテレビで見た、第一印象」だったのに「居心地の悪さを見せた『勇気』を、今は感じます」と記しました。

 おかしいと感じたことに向き合って、居心地の悪さを隠さず、それによって広く人々に問い掛けた。その大坂選手が今回の全仏オープンの開催前に、試合後の会見を拒否すると表明。実際に会見を行わず、主催者は罰金を言い渡し、さらには四大大会主催者の共同声明で出場停止をも警告される事態に。

 会見拒否の理由として「アスリートの心の健康状態が無視されている」を挙げていた大坂選手は、大会の棄権を表明。ツイッターの投稿で「2018年の全米オープン以降、長い間うつに悩まされており、その対処にとても苦しんできた」とつづりました。

 うつ状態にあって、自分の心のありようを説明するのはつらいことだと思います。あらためて、その勇気に敬服すると共に、会見が大坂選手にとってひどく息苦しいものに感じられる経緯について、日本の私たちは後ろめたさを感じずにはいられません。

 当初、スポーツ新聞や情報番組などでは、会見での発言を「なおみ節」などと形容していました。日本語での発言があまりスムーズでない時にそれをいじるための方便であり、「居心地が悪そう」な彼女を引っ張り出していることへの後ろめたさを気づかせないためでもあったと思います。

 いつまでたっても、異なるルーツを持つ選手への向き合いに慣れる様子がなく「どれほど普通の日本人っぽいか」に興味を持つのをやめず、さらに「どれほど普通の女の子っぽいか」を押し付けようと詰め寄るこの国の報道に、おおいに疲弊させられたはずです。

 その大坂選手が、世界ランキングを駆け上がり、選手の精神に負荷を強いてきた会見のあり方に異論を呈したのが、今回です。テニスに限らず、スポーツ界全体に及ぶ問い掛けです。

 全仏オープンは、五輪開催年には選手選考の場としての役割も兼ねます。大坂選手が五輪出場資格を失う可能性はないそうですが、今回の会見拒否は、コロナ禍にあっても開催されようとしている東京五輪に噴出する疑念と批判にも、一脈通じるものが。

 巨大イベントへと膨らむにつれ、過剰な商業主義に走り、興行として選手を宣伝に駆り出しておきながら、選手の心身の健康を守ることを重んじない。観客や視聴者もメディアに誘導され、感動をくれ、アイドルになれ、人徳を見せろ、子どもの手本であれ、と欲しがることに慣れてしまいました。

 スポーツに商売を持ち込むな、とは少しも言いませんが、そろそろ「スポーツ、そしてスポーツ選手の消費者」から降りる人が増えていい頃だと思います。