怪しいTV欄

2021.9/24

生活の不満 軍隊側に付いた国民

 誰に向けて話しているか。ドキュメンタリーでは重要です。外国人の取材者や視聴者に向けると、共有できると予想し得る前提や思いなどが変わり、話し方が違ってくる。より具体的になる。日本の社会にいてなんとなく共有できているつもりの題材ほど、その違いは大きく。

 世界の200以上の国や地域で放送されている衛星放送およびケーブルテレビのチャンネル、ヒストリーチャンネルで制作された日本の第2次大戦についての番組「名もなき人々の戦争」を見ました。死体が積み上げられた空襲後の光景など、日本ではあまり放送されたことがない当時の映像も。スタッフは日本人ですが、海外放送用に英語ナレーションでつくられています。

 敗戦間もなくのことを、当時10代だった女性が「とにかく進駐軍かっこいいんですよ」「背が高くて着ている服、上等な生地でしょ」と振り返ります。「生地」の具体性で、ぐっと感覚が自分に近づいてくる。と同時に、国内向けの取材では口にされない、放送に残されない発言かもと。

 「一国の栄枯盛衰の物語」「勝てぬ戦争の為、命を捨てる様説得された民間人の運命を辿る」という字幕で始まった番組は、敗戦から20年をさかのぼります。25歳以上の男性が投票権を得て西洋並みの民主的な機運が高まり、都会ではモダンガールが闊歩していた1920年代後半。

 しかしそうした新しい社会を快く思わない人、その恩恵を受けられず貧困にあえぐ人々も多くいました。大地主や巨大財閥が工業や貿易などの富を独占し、政治家が資金力になびいて彼らを優遇している、という現状認識が広まる中。島薗進・東京大名誉教授によると、「軍隊は政党政治を批判」し、「天皇に直接仕える軍隊こそが正しい国の方向を進めて行くんだという信念を持っていた」。そのアピールは成功し、満州事変において「長年の貧困にうんざりした国民は政治家ではなく軍隊側に付いた」と番組は説明します。

 戦争が始まると、新聞はスポーツのように実況し、人々は熱狂。戦地で大量殺人をやってのけた兵士は人気者としておもちゃのモデルになるほど。

 しかし、アメリカと開戦すると間もなく戦況は悪化。物資が不足する銃後ではお互いが見張り合い、「人が人を信頼できない」暮らしだった、外出時には軍服に似たみな同じ服を着るようになり「個人というものがなくなって、みんな国のものに」と洋画家の野見山暁治氏は振り返ります。

 沖縄での地上戦。30年余り遺骨の収集活動を続ける男性は、自爆した死体の多くが太ももとすねの骨が同じ位置で切れていると言います。靴を脱いでひざまずき、手榴弾を抱え込んだ。当時子どもだった男性は、米軍に保護を求めようとした男性が、日本兵3人に「スパイ野郎 売国奴」と首を切られるのを見たそうです。首が落ちても、3人は胴体に刀を振り上げて。血まみれになって殺す人、ひざまずいて自死した人には、何が見えていたのか。

 始まりは、生活の不安や不満でした。わかりやすい敵を示されても、その敵と戦うんだと威勢よく物語を提示されても、見えにくい本当の因果関係、具体的な原因を辛抱強く見極めなくては。