かついえおやき店―東筑摩郡生坂村

おな

幅8.3㎝x厚さ5.8㎝ 255g 野沢菜塩漬け (味噌、砂糖、粉末出汁、サラダ油、アジシオ)

なす

幅9.0㎝x厚さ5.8㎝ 241g 長ナス(味噌、サラダ油、アジシオ)

あんこ

幅8.0㎝x厚さ5.5㎝ 242g 小豆粒あん(砂糖、塩)

 おやきの原点ともいえる灰焼きおやき。その名の通り、囲炉裏の熱い灰の中に埋めて蒸し焼きにします。もっとも最近まで灰焼きおやきが残っていたのが東筑摩郡生坂村。けれど、村に6軒あった灰焼きおやき店も現在では3軒までに減ってしまいました。その数少ない伝統の灰焼きおやきを守る有名店が、かついえおやき店です。
 店の入り口の看板には「おやきの本格派 昔ながらの囲炉裏焼」の文字。全開の窓から店内をのぞくと、どーんと大きな囲炉裏。その前でおやきに灰をかけながら、「こんにちは!いらっしゃい!」と元気な声で迎えてくれるのが、代表の甲斐沢えり子さんです。

 これまた全開の入り口の扉を入ると、すぐ奥の厨房でおやきを包んでいる光景が目に飛び込んできました。これがもう、この上ないほどの豪快なこと!
 200gの生地量は通常のおやきの3倍以上。この生地を手のひらにグローブのように広げ、全面にヘラで味噌をベターッと塗ります。もう一方の手で刻んだキャベツやナスなどの具をガシッとわしづかむと、素早く生地の上にのせてガッガッと押し込んでいきます。生地に対して具の量は3分の1程度ですが、生の具材は空気を含むので押し込むのも至難の業のはず。生地を両手で包むように持ち上げていき、口をすぼめる直前に油をシュシュッと振り、アジシオをパパッとかけ、口を丁寧に閉じます。
 ソフトボールほどの大きさのおやきが出来上がると、鉄鍋で表面だけを焼き固め、具の種類ごとに焼き印をつけてから、お隣の灰焼き場へと一個一個運びます。
 待っているのは灰焼き担当のえり子さん。出来上がった順におやきを灰の中に並べ、竹べらで灰をかけながら次々とおやきをひっくり返していきます。おやきの表面全体に焼き色をつけたり、おやきが灰の中で爆発しないように、こまめに回さなくてはならないからです。
 1個焼き上がるまでに40分。朝7時の火入れから午後1時過ぎに火を落とすまで、この作業が延々と続きます。冬でも窓を全開にするほどの熱い炉。その周りをまるで独楽ねずみのようにクルクル、クルクル回り続けているその動きに、無駄はまったくありません。「もう体が慣れちゃった」と笑いますが、常に欠かせないのは水分補給。とにかく暑いのです。
 傍らで、これまたクルクル動くのが甲斐沢藍さん。おやきを包んだり、灰焼きをしたり、オーブンで仕上げの焼きをしたり、包装したり、電話を取ったり。オールラウンダーな動きはやっぱり若さでしょうか。母娘の"阿吽の呼吸"も見事です。
 ところが「いえいえ、わたしは嫁です」と藍さん。嫁いでくる前から店の手伝いをしていたそうで、すでに10年以上も灰焼きおやきを作ってきたベテラン。二人は実の母娘かと思うほど仲が良く、お互いを信頼している感じがにじみでています。

 かついえおやき店は平成元年、初代の勝家茂雄さんが自宅隣の今の店で、灰焼きおやき店を開業したのが始まり。勝家さんの仲人で結婚したえり子さん夫婦は、開店と同時に店で働き始め、平成11年に勝家さんからお店の経営を譲渡されて現在に至っています。開店当初からの製造方法を守って、灰焼きおやきの名店として名を馳せていましたが、令和元年に夫の一美さんを突然亡くします。
 「ほんとに突然のことで、何もかもやる気になれなかった」というえり子さんは、店をやめようと思います。その時「お義母さん、わたしが一緒にがんばるから、お店続けていきましょう」とえり子さんを励ましたのが藍さんでした。「だって誰かが守っていかないと伝統が途切れてしまうから」と藍さん。えり子さんも「頼もしい後継ぎがいてほんとにありがたいです」と嬉しそう。次世代がいる「かついえおやき店」の灯はこれからも健在です。

 おやきの種類は、野菜ミックス、なす、おな、あんこの4種類。ミックスはキャベツと人参を千切りして生で、なすは長ナスを5㎜ほどに細かく刻んで生で、野沢菜は塩抜きしてから砂糖と粉末出汁で下味をつけたら、それぞれ、おやきを包む時に味噌と油とアジシオで味の仕上げをします。時々あるという裏メニューはさまざまで、この日は「辛味なす」でした。
 えり子さんが好きなのは「なす」、小学校へ通うお孫さんも「なす」が大好きで、大人でもお腹いっぱいになってしまう大きなおやきをペロッと平らげてしまうそうです。
 出来立てが最高においしい灰焼きおやきに、県内外から買い求める人がひっきりなしに訪れます。来店の際は事前予約が欠かせません。冷めてしまったおやきも低温のオーブントースターでじっくり10分程度焼き直すと、焦げ目がパリッとして香ばしくなります。



かついえおやき店
代表 甲斐沢えり子
創業 平成元(1989)年
東筑摩郡生坂村草尾13190 ℡0263-69-3105

おやきの原点「灰焼きおやき」の有名店。県内外からたくさんの来店客で賑わう上に、1個焼き上がるまでに40分かかり、作れる数量も限られるため予約は必須。
1個250g前後の特大おやきは通常のおやき2個分以上。食べ応えも、歯応えも十分で、昔ながらの味にはファンが多い。

えり子さん(左)と藍さん

価格 300円(税込)
生地 中力粉、水

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