南屋製菓店―長野市三輪田町

野沢菜

幅6.8㎝x厚さ4.5㎝ 87g 野沢菜塩漬け、人参 (味噌、醤油、砂糖、サラダ油、粉末だし)

丸なす

幅8.0㎝x厚さ2.5㎝ 103g 丸ナス(味噌、砂糖、サラダ油、粉末だし)

ピリ辛きざみなす

幅7.3㎝x厚さ2.3㎝ 85g 丸ナス、一味唐辛子(味噌、砂糖、サラダ油、粉末だし)

あんこ

幅7.0㎝x厚さ3.5㎝ 98g 小豆粒あん(砂糖、塩)

 わたしが知る限り、南屋製菓店は信州のおやき屋の中でもかなり早起きです。午前3時、2代目の田中隆則さんが工房で段取りを始め、3時半には3代目正昭さんが餅をつき始めます。餅をつく傍らでおやきの生地作りが始まり、正昭さんの妻の正恵さんが加わって、餅菓子やおやきが次々と出来上がっていきます。
 開店は7時。店を開く前から、朝食用にと散歩途中に立ち寄る人が後を絶ちません。早朝から熱々のおやきを求めるお客で賑わうおやき屋はここぐらいでしょう。
 南屋のおやきの特徴は生地です。生イーストを使った生地はふんわり、それでいてフワフワ過ぎず、優しい具の味付けにマッチしています。生イーストを使うのはおやき屋の中でも珍しく、ベーキングパウダーやイーストパウダーのような噛み応えのある弾力感とは一味違う食感です。ただし、ナスのおやきだけはイーストを使わないモチモチした薄皮で仕上げています。ナスと生地の"噛み合わせ"を考えての生地作りは、先代から受け継ぐこだわりです。
 こだわっているのは、具の野沢菜と仕込み味噌も同じ。野沢菜は店から片道30分ほどかかる山間の畑で、完全な自家栽培を続けています。収穫後は畑に隣接する漬物小屋で木樽に塩だけで漬け込み、使うたびに漬物小屋まで取りに行くとか。野沢菜漬けは刻んで塩抜きし、大釜で味付けをしてからおやきに仕上げるわけですから、大変な手のかかりようです。自ら漬けているお店はありますが、野沢菜の栽培から手掛けているおやき屋は他に聞いたことがありません。
 味噌も自家製で、1年分を仕込み部屋に仕込んで使います。麦麹と米麹を同量ずつ入れた味噌はまろやかで奥深い味わいです。
 店頭に並ぶおやきは、定番の丸なす、ピり辛きざみなす、キャベツ、野沢菜、切干大根、つぶあん、そら豆、卯の花、かぼちゃの9種類、そこにニラ、ねぎ、ふき味噌、雪菜、のびろ、野沢菜かぶなどが季節によって加わり、常時10種類ほどが販売されています。どれも手間をかけることを惜しまず、こだわりが詰まったおやき。正昭さんと正恵さんの3代目夫婦が2人で愛情を込めて作ります。

 南屋製菓店が善光寺仲見世にある南屋総本店から暖簾〔のれん〕分けされたのは昭和10年。創業当初は大福など餅菓子を売る和菓子専門の店でした。初代が若くして亡くなり、20歳前から奉公に来ていた隆則さんが、そのまま入り婿として屋台骨を支えることに。砂糖を買うにも苦労をしながら南屋の暖簾を守り、昭和42年頃に近所の人に頼まれておやきを作ったことをきっかけにおやき販売にも力を入れて、2003年、息子の正昭さんに引き継ぎました。
 3代目となった正昭さんは、30歳まで農機具販売会社に勤務。「いずれは店を継ごうと思っていたけど、やっぱり他人の飯を食べてからじゃないと自分に甘くなっちゃうから」。そして正恵さんと出会って結婚、実家へ戻り、南屋に入ります。
 入った当時は、頑固で職人気質の隆則さんとほとんど毎日のように衝突していたとか。味付けや段取りの喧嘩はしょっちゅう、果ては経営の考え方までも食い違って、正恵さんも気を揉む毎日だったそうです。隆則さんの時代は決まった休みもなく働きづめでしたが、正昭さんが入り、卸売りを始めてからは定休日を設けて、しっかり休むようにもなりました。

 今は隆則さん夫婦はほぼ引退し、早朝の段取りだけ隆則さんがちょっと顔を出す程度。正昭さんと正恵さんが二人三脚で餅菓子とおやきを作っています。「2人で作っているから欲は出さない、無理はしない」と正昭さんが言うと、正恵さんが「お昼前に売り切れそうで2回目作ってくれるかなあって思っても、『作らない』って言われると、お客さんに『すみませんねぇ、うちの職人が今日は作りたくないって言ってるんですよ』って断るの」と笑わせます。
 夫婦には高校生を頭に息子が3人。正昭さんは「息子たちには店を継がせるつもりもないし、継ぎたいと言っても継がせない」ときっぱり。でも、自分と同じように他所で働いてからそれでも店を継ぎたいというのなら、考えてもいいかなと思っているようです。3人とも大のおやき嫌いだそうですが、「時々学校の給食におやきが出ると、うちのおやきよりまずかった~って帰ってくるの。うちのおやきもまともに食べてないのにねぇ」と正恵さんは朗らかに笑います。
 「夫婦喧嘩はしないの?」と振ると、正昭さんが「仕事が滞っちゃうからね」と即答。正恵さんは「喉元まで出かかっても、ぐっと我慢。言いたいことを言って喧嘩になったら、おいしいものはできないでしょ」。確かにその通り。だから2人が作るおやきは優しい味なんだなあ。
 「65歳までは欲を出して仕事するけど、それを過ぎたら店売りだけにして、老後は2人でゆっくり過ごしたいなあ」という正昭さんに、正恵さんが隣で深く頷きました。



南屋製菓店―みなみやせいかてん
代表 田中正昭
創業 1935年
長野市三輪田町1346 ℡026-232-7218

善光寺仲見世にある南屋総本店からのれん分けし、もともとは餅菓子専門店として創業。2代目からおやき作りを開始。現在は3代目夫婦が切り盛りする。
野沢菜は自家栽培、味噌は自家製仕込み味噌というこだわりよう。
朝7時開店。早朝から熱々のおやきを求める人でにぎわっている。

正昭さん(左)と正恵さん

価格 140円(税込)
生地 中力粉、砂糖、生イースト、塩
   丸なすの生地は中力粉のみ

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