いろは堂―長野市鬼無里

野沢菜

幅7.3㎝x厚さ3.4㎝ 95g 野沢菜塩漬け (味噌、砂糖、サラダ油、粉末出汁)

なす

幅6.5㎝x厚さ3.4㎝ 95g 丸ナス(味噌、砂糖、サラダ油、粉末出汁)

あずき

幅6.9㎝x厚さ3.5㎝ 96g 小豆粒あん(砂糖、塩)

 わたしが初めて、鬼無里のいろは堂本店におやきを買いに行った時のこと。
 「どうぞ、こちらに座ってお待ちくださいませ」と言われ、店内でそば茶を飲んで待っていると、出来立て熱々のおやきがひとつ、お皿に載って出てきました。「わざわざ鬼無里までお越しいただいてありがとうございます。心ばかりのサービスです」とスタッフの方。お茶を継ぎ足し、漬物まで出してくれて、びっくりしました。
 この温かいおもてなしに感動したことを、専務である4代目伊藤拓宗〔ひろむ〕さんに話すと、「作りたてのおやきを食べられるのは本店だけなんです。遠い鬼無里に来てくださったお客様に感謝しつつ、その特別感を味わっていただきたいという思いでお出ししています」とのこと。おやき単体を扱う企業として、今では県内最大のいろは堂。そのおもてなし精神は2代目伊藤幸嘉さんがおやきを作り始めた時から現在まで、連綿と受け継がれています。
 いろは堂は大正14年、初代が修行していた小川村の和菓子店から暖簾〔のれん〕分けで開業したのが始まり。後を継いだ幸嘉さんが昭和29年に店を鬼無里に移転、小中学校の給食用パンの製造を請け負うなど商売の幅を広げました。おやきを作り始めたのは昭和40年代。当時の鬼無里村は、本州最大規模の水芭蕉群生地が発見されて話題になっていました。県庁からやってくる視察団へのお土産の注文が入ったので、おやきを作ってみたところ、これが好評。それをきっかけに本格的な製造に乗り出しました。
 いろは堂のおやきは当初、パンの製法そのままに焼くだけのおやきでした。試行に試行を重ねてたどり着いたのが、現在の揚げ焼き製法。生地はそば粉3%を加えた強力粉にイースト、砂糖、塩を混ぜたもの。生地と具は同量で、包んだら油でさっと揚げます。それからオーブンでじっくり焼く時は、焼き色をつけ、さらに膨張を防ぐために上下を鉄板で挟むのがユニーク。こんがり焼けた見た目、かじるとサクッと軽い食感、それでいて野菜たっぷりで優しい味付けの具。パンと似た製法ながら、食べればやっぱり「おやき」です。
 とはいえ、地元でのおやき販売がなかなか軌道に乗らなかったのは「おやきは買ってまで食べるものじゃない」という当時の風潮から。拓宗さんは「祖父は職人タイプで、もの作りは得意でも商売はヘタでしたからね」。そこに登場したのが26歳で九州から婿入りした3代目、現社長の宗正さん。とにかくおやきを売り出そうと全国を飛び回りました。「父はほとんど家にいませんでした。思いついたら即行動、後で考えるタイプなんでしょうね」。3代目の行動力と攻めの営業力から、今のいろは堂があると言っても過言ではありません。
 従業員は現在60人、そのうち35人が厨房で日々おやきを作ります。朝6時から生地作り、8時からおやき作り開始。10人の包み手がものすごい速さで包んでいきます。1個わずか10秒、10人で1日1万個以上を包むとか。具材は野菜ミックス、切り干し大根、野沢菜、ぶなしめじ、ねぎみそなど、季節おやきも合わせて毎日10種。水分が多かったりばらばらしたりで包みにくい具材は人の手で、整形が楽なかぼちゃとつぶあんは機械で包みます。「分刻みで作れる機械はすごいけれど、同時に人間ってもっとすごいなあって思うんですよ。機械は微調整が効かない。人間は気付きがあるから日々進化する。やっぱり100%機械生産というのは無理ですね」と拓宗さん。
 具の野菜へのこだわりも並々ではありません。野沢菜は県内の有機たい肥の土壌で茎と葉のバランスを指定しての委託栽培、かぼちゃは北海道で契約栽培、他もほぼ長野県産です。

 現在、本店を含む直営店が7店舗、取扱店は全国150店に上ります。「いろは堂はまもなく創業100年。僕はいろは堂の次の100年を見据えて、新しい発想で、おやきの更なる展開を考えていかなくてはと思っています」。静かなトーンで話す拓宗さんの言葉には力強い決意がにじみます。祖父母にとって待望の孫だった拓宗さんは、大女将としてファンが多かった祖母のきくみさんに「将来は拓宗が後を継ぐんだよ」と言い聞かされて育ちました。そのせいか4代目を継ぐことに全く違和感はなかったそうです。
 そしてその言葉通り、いろは堂は長野自動車道長野インター近くに新工場建設を決定、2022年夏には新しい発信基地として稼働する見通しです。製造量は現在の1・6倍にアップ。拓宗さんは「おいしさと品質を保ちながらも、いかに効率を高められるかが一番の課題。おやき作りの体験スペースも設けて、多くの子どもたちにおやきを作って食べてもらうことで食文化の継承に繋げていきたい」と先を見据えます。
 この鬼無里本店はどうなるんですかー。思わず聞いてしまうと「本店はこのまま維持します。作りたてを食べてもらえるのは本店だけという特別感もそのままです。いろは堂の原点は鬼無里ですから」。その一言に安堵しました。


いろは堂
代表 伊藤宗正
創業 1925年12月
長野県長野市鬼無里1687-1 ℡026-256-2033

おやき単体を扱う企業としては県内最大の有限会社いろは堂。長野市中心部から車で30分の鬼無里地区に構える本店は大型バスの観光客が立ち寄るほどで、来店客にはひとり1個のおやきのサービスが人気。県内外に直営店7店、取扱店は全国に150店近くある。

拓宗さん(左)とスタッフ

価格 240円(税込)
生地 強力粉、そば粉、砂糖、塩、イースト

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