小川の庄―上水内郡小川村

野沢菜

幅7.0㎝x厚さ3.0㎝ 105g 野沢菜塩漬け (味噌、砂糖、菜種油、粉末出汁)

きざみなす

幅7.3㎝x厚さ3.2㎝ 108g 丸ナス(味噌、砂糖、菜種油、粉末出汁)

あずき

幅6.7㎝x厚さ3.3㎝ 106g 小豆粒あん(砂糖、塩)

 「あわてず、あせらず、もう少し」「もう一息です」「もう安心です」―。
 小川村を突っ切る県道長野大町線(通称オリンピック道路)から小川の庄へ続く山道に入ると、こんな看板が目につきます。道幅はどんどん狭くなり、ガードレールのないカーブが続く道。「本当にたどり着けるの?」という心細さへの優しい配慮にほっとしながら山道を進むと、ぱっと開けた峠の先に小川の庄縄文おやき村が見えてきます。
 初代社長の権田市郎さんの実家を改造した母屋と、縄文時代の竪穴式住居を模して造られた囲炉裏部屋からなるおやき村。もともとは昭和61年、村の人々が働く場所を提供しようと設立された第三セクター方式による新しい村づくり事業の一環でした。
 当時の小川村は、養蚕業が衰退して現金収入が激減。市郎さんも父親を早く亡くし、ひとりで9人兄弟を育て上げた母親に安定した収入をと強く願っていたそうです。市郎さんは、母親が住んでいた峠の実家の周りを整備して「おやき村」と命名。市郎さんの息子で3代目社長の権田公隆さんは「父は、村のじいちゃんばあちゃんたちが働きやすい組織と場所を作り上げていったんです」と話します。

 会社のモットーは「生涯現役」。従業員に定年のないからこそ「いい仕事ができなくなったと自分で感じた時が引き時」なのだそうです。元気な高齢者が働く会社という言葉通り、72人の全社員の年齢は19歳から83歳。ほぼ5割が60歳以上です。「最高齢の女性もバリバリ動いていますよ。やっぱり現場で働けることが元気の源なんですね」と公隆さんもにっこり。この日、囲炉裏脇でおやきを作っていた柳澤す満子さんは75歳。手に取った生地に具をてんこ盛りに載せ、ギュッ、ギュッと押し込んで包んだおやきを焙烙〔ほうろく〕に放り込むと、72歳の有坂重夫さんがそれを転がして焼き付けてから、頃合いを見計らって脇の渡しでじっくりと焼き上げていました。まるで若者のようなテキパキとした動きは見ているこちらも驚くほどです。
 焼きおやきの具は常時2種類。野沢菜、なす、切り干し大根、卯の花、ふき味噌、小豆などが季節によって変わります。「このおやきは権田家のおやきなんです。昔おばあちゃんが作ってくれた、いわば僕のおやきの原点です」と公隆さん。小学校の頃は毎週、両親と一緒に泊まりで蚕の世話の手伝いに来ていたそうです。「そのたびにおばあちゃんが作ってくれたのがこのおやき。おばあちゃんの手のひらサイズだったから今のよりもっと大きかったけど、出来たてを待って食べるのがそれはそれはおいしかった。だからこそ焼きたてのおやきを食べて、おいしさを実感してもらいたいんです」
 30分かけて焼き上がったおやきはパリッジュワッの食感。やはり出来たてはおいしさが違います。囲炉裏で作る焼きおやきを味わえるのは、小川村の「縄文おやき村」と善光寺参道にある「おやき村大門店」の直営店のみ。この2店でしか焼きおやきを味わえないのは大量生産ができないこともありますが、「ぜひ長野へ小川村へと足を運んでほしい」という小川の庄の思いもあるそうです。
 またおやき村では、焼きおやきが自分で作れます。今の時代、囲炉裏を使っての焼きおやき作り体験は希少価値。焼いているうちに薄い生地部分から汁気が吹いて穴が開いてしまうのもご愛敬です。出来立ての焼きおやき、しかも自分で作ったおやきの味はまた格別。県内外を問わず訪れる人が多い村の観光名所なのも納得です。
 直営店の焼きおやきのほか、村内の別工場では通販用の蒸かしおやきを製造。焼きとはまた違った食感で、全国のおやきファンに向けて発送されているのも小川の庄の強みでしょうか。

 ところで公隆さん、実は小川村に住んだことはないそうです。でも毎日朝7時から午後5時過ぎまで小川村で過ごして15年。特に社長に就任してからは小川村の将来に思いを馳せることも多くなりました。雇用を増やし、原材料である野菜の生産者とのパイプもさらに強く、小川村をもっと活気づけていきたい―。その熱い思いは留まるところを知りません。「村には本当にお世話になっているので、もっともっとここを愛さなくてはいけない。遠い将来、過疎化がもっと進んで、周りにひとりも住民がいなくなってもおやき村は存続させていきます」と力強く語ります。
 店の外へ出ると、眼下には美しい里山が広がっていました。「散歩道を整備し始めたんです。針葉樹を伐採して実や花がつく広葉樹を植えて、この峠にプライベートベランダを作って、里山の景色を眺めながらおやきを頬張ってもらいたいんです」。楽しそうに話す公隆さんの引き時は、まだまだずっと遠い先のようです。


小川の庄
代表 権田公隆
創業 昭和61年
上水内郡小川村高府2876 ℡026-269-3760

第三セクター方式による村づくり事業の一環で設立した株式会社。
事業内容は幅広く、おやきのほか漬け物・味噌・調味料・お惣菜などの食品加工事業、自社および契約農家よる農産物生産事業、直営店2店と通販事業を展開する。
農家を改築したおやき村の囲炉裏で焼く焼きおやきが人気。小川村の観光スポットでもある。

公隆さん(中央)とスタッフ

価格 210円(税込)
生地 中力粉

おやきづくり体験は2個540円

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