蔦屋本店―長野市松代町

野沢菜

幅7.5㎝x厚さ3.8㎝ 108g 野沢菜塩漬け、人参、キャベツ(醤油、砂糖、サラダ油、粉末だし)

丸なす

幅8.2㎝x厚さ2.8㎝ 113g 丸ナス(信州味噌、砂糖、サラダ油、粉末だし)

あんこ

幅7.2㎝x厚さ2.8㎝ 113g 小豆粒あん(砂糖、塩、寒天、水飴)

 おやきの具によって生地を変えるお店はありますが、城下町松代に店を構える蔦屋本店は、同じ具を2種類の生地で作り分けている珍しいお店です。蔦屋の「信州松代大名おやき」は、ふっくら食感の「蒸かしおやき」と、もっちり食感の「焼きおやき」の2種類。具はそれぞれに野沢菜・なす・つぶあん・ミックス・にらなどがあり、季節によって雪菜・のびろ・きのこなどがラインナップします。「どちらか一つにしたいけど、それぞれに昔からのファンがいて、なかなか止められないんですよ」と話すのは倉嶋輝行さん。蔦屋本店の5代目です。
 大正5年創業の蔦屋本店は、伝統菓子の「松代せんべい」をはじめとする和菓子とパンなどを手広く作る地元の菓子店でした。特に初代が給食用に始めた黒糖入りの黒パンは、駅などでも販売するほどの人気。城下町である松代になくてはならない菓子店として広く愛されてきました。
 おやきを作り始めたのは昭和33年、3代目で輝行さんの祖父の忠さんの時です。当時、おやきは家庭で作るもの。家で簡単に作れるものが売れるわけがないという母親の大反対にも屈せず、おやきを開発しました。あんことキャベツミックスの「蒸かしおやき」を販売したところ、1日に100個近くが売れる人気商品に。
 それからは具の種類を増やしていく中で、「焼きおやき」がデビューしたのは昭和42年でした。地元の常連さんからの「焼いてモチモチしているおやきが欲しい」という声がかなり多くあったことから、忠さんが考案。要望を聞いて試行錯誤を繰り返しながら、3年かけて今の製造方法に落ち着きました。「北信の人たちはモチモチが好きですね。祖父はゼロからスタートしてこの製法を考えたんだから凄いと思います」と輝行さん。今では2種類のおやきそれぞれに、根強いファンがついているのだそうです。
 厨房をのぞくと、「蒸かしおやき」「焼きおやき」ともに、包み、蒸かし、焼きなどの担当ポジションでそれぞれのスタッフが忙しく働いています。
 特に中力粉に多めの水を加えた「焼きおやき」の生地は緩いので、包むには技術が必要ですが、2人のベテランスタッフは苦も無く包んでいきます。そして蒸かしたり、焼いたりして出来上がったおやきは、次々と包装されて店へ。「昔からやっているからやり方は変えられないんですよ。ちょっと味の配合を変えただけでも、お客さんから変えたの?と言われちゃう」。スタッフの1人がテキパキとおやきを焼きながら話してくれました。
 いくら「焼きおやき」が人気でも、油を使うと手間がかかる上にコストも高くつき、掃除も大変では?と聞くと、「そりゃ効率は悪いです。量産できないし、機械化もできない」と輝行さん。機械化するのが難しいのは、見ていて納得です。それでも5代目は「お客さんの要望がある限り、焼きも蒸かしもやめられないですね」ときっぱり。
 でも、2種類を作り続けることでわかってきたこともあります。地元では比較的、焼きのモチモチ食感が好まれるけれど、若い人や都会のお客さまは蒸かしのふっくらが好き。冬はモチモチがいいけど、夏はふっくらがいいという人もかなりいるそうです。2種類作っているからこそ、地域の実情や社会変化が肌で伝わってくることがあるのです。

 蔦屋本店は昭和38年に洋菓子の製造販売、50年からはパンの製造販売もスタートして、地域に根差した総合菓子店へと成長してきました。5代目を継いだ輝行さんは、幼い頃から店の様子を間近に見てきて、商売の大変さを痛感していました。意を決して28歳の時に入店し、両親や職人さんたちに一つ一つ教わりながら経営の基礎を学びます。そして現在は、和菓子を担当している弟やスタッフとワンチームで、店を盛り立てています。
 「昔は何でもそろっている総合的なお店が重宝がられていたけれど、今は専門店化が加速して消費者の購買の流れが変わってきています」と最近の変化を肌で感じています。さらに「松代は城下町であり、観光地という地域性はありますが、松代の人口も年々減少していますし、コロナ禍で最近は土産需要も減っています」。
 それでも、それぞれの分野の職人さんたちと試行錯誤しているからこそ、「私たちの作り出すもの一つ一つには、人を笑顔にし、人と人をつなぐ力があると信じています」と力強い言葉が続きます。「貧乏暇なしの私の背中を見ていると、子どもたちは後を継ぐのは嫌になってるかもね」と苦笑いしつつも、「伝統を守りつつ、新しい食の在り方も提案していく。そのこだわりをこれからも貪欲に追求していきます」。
 大丈夫、親父の背中は輝いてます。


蔦屋本店
代表 倉嶋輝行
創業 大正5年
長野市松代町松代524 ℡026-278-2005

大正時代から5代続く城下町の菓子店の老舗。
「大名おやき」や和菓子のほか洋菓子、パン、ケーキなど菓子類全般を扱う。
製法が違う2種類のおやきは蒸かし、焼きともに50年以上の歴史があり、それぞれに根強いファンがいる。

輝行さん(中央)とスタッフ

価格 146円(税込)
生地 中力粉、砂糖

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