誠心堂―長野市南千歳町

野沢菜

幅6.5㎝x厚さ4.5㎝ 90g 野沢菜塩漬け (醤油、砂糖、サラダ油、白ごま、粉末だし)

丸なす

幅8.0㎝x厚さ2.7㎝ 120g 丸ナス(味噌、砂糖、サラダ油)

あんこ

幅6.2㎝x厚さ4.0㎝ 101g 小豆粒あん(砂糖、塩)

 JR長野駅前近く、百貨店や商業ビルが立ち並ぶ一角の路地を入ったところに店を構える誠心堂は、長野市内でも老舗の和菓子店です。昭和初期創業とのことですが、戦時中の混乱で資料を紛失してしまって、正式な創業年はわかりません。昭和16年には営業していた記録はあるものの、それこそ戦時中は休業を余儀なくされ、営業再開は昭和29年。現在に至っています。
 おやきの販売を始めたのは、現在の代表、3代目阿部正志さんの母、久子さんが職人さんたちの賄〔まかな〕いとして作り始めたのがきっかけだそう。嫁いできた昭和30年代は職人さんがたくさんいたといいます。
 「お昼の賄い用のおやきを作り過ぎてしまったので、店に並べてみたところ、思いがけず売れてしまったんですよ」と正志さん。最初はなす・あんこ・キャベツの3種類のみ販売していましたが、現在は野沢菜・かぼちゃ・大根(切干)も加わって、通年6種類が店頭に並びます。季節おやきは、夏場に作るそら豆など。野沢菜、キャベツ、なすの味噌にたっぷりの白ごまが入っていて、味のアクセントになっています。
 生地に使う小麦粉は、おやきとしては珍しい薄力粉。そこに上新粉を加え、ぬるま湯で練って30分ほど寝かせます。正志さんは「母が作っていた通りの作り方と味付けなんですよ。ひとつも変えてないんです」。話しながらも決して手を休めることがない正志さんの向かいで、息子の4代目裕太さんも一緒におやきを作ります。

 ビル1階という立地のせいか、他店に比べるとかなり狭い厨房ですが、一歩足を踏み入れてびっくり。「理路整然」という表現が正しいのかどうか、真っ先に頭に浮かんだのがこの言葉でした。あるべき場所にある調理器具たち、そしてすがすがしいほどの清潔感。その中で向かい合って仕事をする正志さんと裕太さん。すべてが定位置についているかのようです。
 作業もとてもリズミカル。生地を持ち上げて片手で切り取り、調理台に並べます。量りを使わずとも全てが同じ45g。生地を手のひらにのせ、スプーンで具を取り、生地の上に盛り上げて押し込み、おまんじゅうを包むようにヒュッと口をすぼめて綴じ目を合わせます。同じ作業が淡々と繰り返されていく美しさといったら。まるでメトロノームの音が室内に響いているかのような動きに目を見張ります。
 包み終えたおやきをセイロに並べ、蒸し器に重ねていくこと十数段。全部のおやきを包み終えてから一気に蒸かし上げます。蒸かしている間に調理台はきれいに片付けられ、熱々のおやきをのせる簾が並べられます。蒸かし上がったおやきを簾に移し、調理台脇の棚に並べて冷ますという一連の作業は、1秒の無駄もない流れるような動きです。
 おやきの包装は3代目奥様の春美さんの出番。裕太さんとふたり、冷めきらないうちにビニールで包み、具のシールを貼ります。このシールは何と春美さんの手書きです。「僕はプリンターを買えばいいと言っているんですけど、母は字を書いているとボケないからって、ずっと手書きなんです」と裕太さんが言うと、春美さんが「お店が暇な時に書いているんですよ。集中して文字を書くのが好きなんです」と笑います。

 職人さんたちが多かった頃は手広く商売をしていたそうですが、平成に入ってからは家族だけで味を守ってきた誠心堂。そのせいか、店全体が温かなベールに包まれているかのように感じるのはわたしだけでしょうか。
 一歩店に入った途端、春美さんの爽やかな笑顔と温かい言葉で一気にお店の雰囲気に引き込まれ、ほっと心が和むのがわかります。取材で伺ったわたしでさえ、まるで馴染み客のような気分。この笑顔に迎えられると、ついついあれもこれもとたくさん買ってしまうのも、足繁く通う常連さんが多い理由も納得です。
 朝5時には家族3人そろって厨房に入り、餅と朝生菓子を作り終えてから、おやきに取り掛かるそう。団子、大福、おはぎの定番和菓子のほか、おこわや赤飯、おにぎりなど近隣の会社員がランチに買い求めやすいメニューも次々に作ります。幼い頃から祖父母や両親が働く厨房に馴染み、早朝から作り上げられるいろいろな品を見ながら育った裕太さん。小学校3年ぐらいから手伝い始め、自然と家業を継ぐと決めていたそうです。
 その先を見据える4代目は言います。「知名度のある信州そばやおやきという郷土食があるのは長野の強みのひとつ。でも、どうやって若い世代にアプローチしていくかが、これからの一番の課題だと思います」。現在は店頭販売のみの誠心堂ですが、裕太さんの時代には階段をもう1段上っているかもしれません。


誠心堂
代表 阿部正志
創業 昭和16年
長野市南千歳町849‐4 エクセレントビル1F ℡026-226-7610

昭和初期創業の老舗和菓子店は、中心市街地にあって常連客が絶えない人気店。薄力粉と上新粉をミックスした生地は和菓子店らしい上品さがある。
たっぷり使われる白ごまの香ばしさが具のアクセント。人気の団子は4種、他にもわらび餅、あんころ餅、おこわなどが並ぶ。

左から正志さん、春美さん、裕太さん

価格 150円(税込)
生地 薄力粉、上新粉

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