御菓子司 喜世栄―長野市横沢町

野沢菜

幅6.8㎝x厚さ3.5㎝ 108g 野沢菜塩漬け、人参、キャベツ (醤油、砂糖、みりん、サラダ油、粉末だし)

丸なす

幅9.0㎝x厚さ2.5㎝ 108g 丸ナス(味噌、砂糖、サラダ油)

小倉あん

幅6.5㎝x厚さ3.6㎝ 108g 小豆粒あん(砂糖、水飴、寒天)

 長野市の善光寺西側の路地を入ったところに店を構える喜世栄は、創業80年以上の老舗和菓子店です。ショーケースには農林水産大臣賞を受けた銘菓「石ごろも」をはじめ、上生菓子、饅頭、最中、大福などが顔をそろえています。善光寺近くにありながら、観光客よりも地元客を大切にしているのがうかがえる品ぞろえです。
 おやきのケースには常時8種類が並びます。野沢菜・丸なす・かぼちゃ・だいこん・ひじき・きのこ入り・小倉あん・そら豆に加えて、季節おやきが1種類。手描きの値札に老舗感が漂います。
 喜世栄のおやき生地は、モチモチした食感が特徴。おやきを売り始めた昭和55年頃は、イスパタを入れたふっくら生地で作っていましたが、次第にモチモチ食感へと変化。「たぶん売れなかったから変えたんでしょうね」とは3代目太田潤一さんの弁。おやき発祥の地である北信地域ではその時代、ふっくら生地は受け入れられなかったのかもしれません。
 生地を30分ほど寝かせた後、1個分ずつ目分量でほぼ40gを正確に切り取り、箸を使って器用に具を入れ、包んでいく手つきの繊細なこと。さすが和菓子職人の技です。ずっと見ていても見飽きない丁寧な仕事ぶりに、すっかり魅せられてしまいました。
 もともとは、潤一さんの曾祖父が長野市権堂町に和菓子店を開いたのが始まり。由緒ある東京の老舗菓子店、塩瀬総本家で修行した後、東京や大阪で和菓子職人として腕を磨き、長野に戻って創業しました。創業から2年後に現在地に移転。潤一さんの父で2代目功さんの時代には全国菓子大博覧会や茶道家元賞を受賞するなど、和菓子店として実績を重ねてきました。
 令和に入るとともに代替わりし、今も朝7時半から潤一さん真美子さん夫婦と、両親で2代目功さん久江さん夫婦の4人が和菓子とおやきを作っています。ただ、ここ最近の世の中の変化には戸惑うばかりだとか。
 「前ほど商品が売れなくなりましたね。特に観光客はめっきり財布の紐が固くて、おやき1個を4つに切ってほしいと言われたり。10人で入ってきて1個しか売れないとガクッと来ちゃうよね」と潤一さんが嘆けば、「現金よりもカードや電子マネーのお客様が増えてきたら、機械に慣れないお義父さんとお義母さんが接客しにくくなってしまって」と真美子さん。
 そこへコロナ禍が勃発。「ちょうど代替わりの直後にコロナが始まってお客さんは来なくなるし、予想していたこととはまったく違うことばかりが起こって、どうしていいかわからなくて」。予定より早く3代目夫婦への負担が大きくなっている現実は否めません。
 ところで真美子さんは兵庫県の出身。夫婦の馴れ初めを聞くと、「僕は18歳で修行に出て、東京3年、大阪5年の予定でいたんですけど」と話し始めた潤一さんを遮るように、真美子さんが「大阪最後の年にお付き合いするようになったんですけど、付き合い始めたら、来年長野へ帰りますって言うんですよ。詐欺でしょう?」「だったら別れるって言ったら帰るのを延ばすって。延ばしたはいいけど2年経ったらまた帰るって」と続きます。「騙されたんです、わたし」「仰る通り。お叱りは甘んじて受けます」。気持ちいいほどあっけらかんとしたやり取りはまるで夫婦漫才。聞いていたこちらはただただ爆笑。とっても素敵なご夫婦です。
 潤一さんと一緒に帰る形で長野へ嫁いできた真美子さんは、義母の久江さんの"すごさ"に圧倒されます。「とにかくよく働くしお料理は上手だし、手が早いんです」。久江さんのようになりたいと頑張った真美子さんは、体調を崩したこともあって「憧れてるけどわたしにはハードルが高過ぎるって悟りました」。
 2代目と3代目の間で意見が分かれると、久江さんが「2人に任せたんだから、口出さない」と言ってくれたり、「でもね、あなたたちも歳を取るとそうなっていくのよ」とも言われたり。陰で店を支える久江さんは今もこれからも、なくてはならない心強い存在存在なのです。
 男の子3人に恵まれた潤一さん夫婦は、小さい頃から長男に対して「あなたが喜世栄を継ぐのよ」と育ててきたそう。そのためか、長男が自分から継ぐと言って現在大阪で修行中だといいます。そして両親と同じく大阪からお嫁さんを連れてくる予定とか。親の背を見て子は育つのですね。
 おやき談義に盛り上がる中、「店でおやきを見て『焼いてないからおやきじゃないわよ』って出て行くお客さんが結構いるんですよ」と話す潤一さんに、「そういう時は、善光寺界隈は蒸かすだけのおやきが主流なんですよって言えば『珍しいわね』って買ってくれるわよ」と真美子さん。
 喜世栄の陰の主役は確実に、頑張ってきた真美子さんにバトンタッチされつつあるようです。


御菓子司 喜世栄
代表 太田 潤一
創業 昭和10年
長野市横沢町653 ℡026-232-7396

長野市の善光寺界隈で創業80年を迎えた老舗和菓子店。和菓子店ならではの丁寧な作りのおやきが人気。
上生菓子・ほうじ茶大福・モウモウ最中やそば饅頭、喜世栄まんじゅうなどユニークな和菓子がそろう。

潤一さん(左)と真美子さん

価格 130円(税込)、丸なす145円(税込)
生地 中力粉+強力粉

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