まだらお―長野市桜新町 

野沢菜

幅7.3㎝x厚さ3.2㎝ 116g 野沢菜塩漬け、キャベツ (味噌、醤油、砂糖、ごま油、塩、粉末だし)

丸なす

幅9.0㎝x厚さ3.5㎝ 146g 丸ナス(味噌、砂糖、ごま油、粉末だし)

あんこ

幅7.0㎝x厚さ2.8㎝ 114g 小豆粒あん(砂糖、塩)

 「まだらおのおやきは、具が多くて皮が薄い」という評判をよく聞きます。人気の薄皮おやきがどんなふうに作られているのか、同じおやき屋として興味津々で伺いました。
 見るからに薄い薄い皮の生地、なんと小麦粉を熱いお湯でこねる「湯ごね」だと聞いて、まずびっくり。思わず「湯ごねなんて薄く包めるわけがないのに、何か他に秘密があるのかしら」と思ったのは本当のこと。小麦粉に熱湯に近いお湯を混ぜると、弾力や伸縮が特徴のグルテン形成が抑えられてしまいます。そのため、生地が伸びずに厚みが出て、包みにくいのが難点なのです。
 そんなことを考えながら作業を見ていたら、30キロの小麦粉をミキサーにかけ、粉の約3倍量近くものお湯を数回に分けて投入、しかも40分もこねています。ミキサーを使っても、湯ごねの水分量は多くても2倍、こねる時間もせいぜい10分ぐらいがふつうです。まだらおの村松一さんの場合はそれより水分量も多く、こね時間も長いので、糊化したでんぷんが微細に撹拌され、トロリとしたキメの細かな生地が出来上がりました。取り出した生地を台に移した途端、生地はど~っと流れるように広がる広がる!
 村松さんは気にもせず、でんぷん粉を手粉にして、目分量で生地を取り分け、手のひらに載せたと思ったら素早くヘラで具を押し込んでいきます。そして1個包むのにわずか5秒。みるみるうちにおやきが並んでいきます。
 "トロリとして腰がない"生地で具を包むのは非常に難しく、モタモタしていたら均等に包むことは不可能。この生地を扱える技術は並大抵ではありません。スピーディな上にリズミカル。さすが村松さん、職人の技です。
 「これでも昔に比べたら遅くなってきたんですよ。昔は1時間に150個以上包んでいましたから」と妻の富枝さん。でも、今でも130個は包めるのですから、本当にすごい。当の村松さんは「冷めてくるとダレて包みにくくなるから、時間との勝負なんだ」と涼しい顔です。
 「修業の10年を入れるともう50年、半世紀おやきを作っているんだよ。そろそろもういいかなと思ってるんだ」。
 もともと食堂をやりたかった村松さん、入った修業先では一番"下っ端"がおやきを作る担当だったため、おやきしか作っていなかったとか。独立して念願の食堂をオープンしてからも、腕を生かしておやきを作り続けていましたが、食堂の売り上げを補うはずのおやきが評判を呼び、おやき作りが忙し過ぎて食堂をやめることに。それ以来、20年以上おやき一筋だそうです。
 村松さんは飯山市斑尾の生まれ。店名の由来はもちろん、故郷の斑尾ですが、飯山にはおやき文化がほとんどありません。一方、富枝さんはおやきの本場、長野市若穂の生まれ。なので、富枝さんの両親や親戚にいろいろ教えてもらいながら、まだらおのおやきを作り上げてきました。 
 卸もしているので、大量のおやきを製造しているはずなのに、富枝さんと2人だけで作り続けてきたことに、またびっくり。「商売を大きくしようなんてさらさら思わなかったなあ。人を雇うぐらいなら受注を減らすよ」とは何と欲がない! 深夜2時からおやきを作り始め、卸先への納品時刻の9時半ぐらいには作り終えます。粉をこねて、おやきをつつむところから、包装、納品まですべて2人。ただただ唖然とするほかありません。
 おやきの種類は、野菜ミックス・野沢菜・大根・あんこ・なすの5種類。一番仕込みが大変な「野沢菜」は、契約栽培してもらっている野沢菜を漬けて、実家の車庫に保管。使う度に取りに行って、包丁で刻んでは塩抜きし、もう一度細かく刻んで蒸かしてから味付けをします。60~70キロというと、2人で作業をしても2、3時間はかかることでしょう。おやきを作り終えてからその作業をしているそうです。
 おやき屋の書き入れ時であるお盆ともなると、前日の夜9時からほぼ12時間ぶっ通しで作り続けること3日間。今は、一番大量だった頃の半分以下になったそうですが、それでも「お盆は毎年どんどんキツくなるね。でも、常連さんがいっぱいいるから断れないしね」。
 20代のお孫さんが後を継ぎたいと言っているとか。「この年で一から教えるのはシンドイよね。おやき作るだけならいいけど、いろいろな段取りや衛生面、経営まで教えなくちゃいけないから」と言いながら、顔がほころんでいるのは隠せません。
 半世紀を一緒に歩んできた富枝さんは年上女房なのだそう。「金のわらじを履いて探したんだから、この50年間後悔なしだね」と言えば、富枝さんが「わたしは後悔しないように自分に言い聞かせてるんですよ」と返します。お互いに相手をねぎらい、感謝し合っての夫婦二人三脚。2人の優しい眼差しも、まだらおのおやきの隠し味なのかもしれません。



まだらお
代表 村松 一
創業 昭和55年
長野市桜新町663-6 ℡026-244-1041

1個130円ながら具がたっぷりで皮が薄く、ファンが多いおやき店。
種類は1年を通して定番の5種類のみ。「職人のおやき」の言葉通り、たっぷりの熱い湯でこねた生地は、熟練の技がなければ包めない、やわらかさと薄さを誇る。

村松一さん(右)と富枝さん

価格 130円(税込)
生地 強力粉、中力粉、熱湯

ARCHIVE