猪乃源―大町市美麻

味噌なす(焼き)

幅7.8㎝x厚さ3.8㎝ 128g 長ナス (味噌、砂糖、サラダ油、粉末だし、青こしょう)

味噌なす(蒸かし)

幅7.2㎝x厚さ4.5㎝ 120g 長ナス (味噌、砂糖、サラダ油、粉末だし、青こしょう)

卯の花(蒸かし)

幅6.7㎝x厚さ5.0㎝ 118g おから、油揚げ、玉ねぎ、人参 (醤油、砂糖、サラダ油、粉末だし)

あんこ(焼き)

幅7.8㎝x厚さ4.0㎝ 140g 十勝小豆(砂糖、塩)

 わたしが「孤軍奮闘のパワフル母さん」と呼んでいる代表の細野ちとせさん。彼女のすごさはおやきにかける情熱、おいしいものを作り出そうという執念に尽きます。一緒に話しているだけで、わたしも負けていられないという気持ちをかき立ててくれるのですから。
 細野さんは白馬村の生まれ。何軒かの飲食業店に勤めているうちに、お客さんの希望に応えられる自分の店を持ちたいという思いを強く持つようになったとか。たまたま美麻に祖父名義の土地があったので、そこに彼女いはく"作業小屋"を建てました。
 信州といえば、やっぱり「おやき」です。おやきの奥深さに面白味を感じていたので、おやき屋さんに挑戦することを決意。いざやるとなったら、とことん突き詰めるのが細野さんです。さまざまなおやきを食べ歩き、小麦粉も食材も研究に研究を重ねて、「自分のおやき」を作り上げてきました。
 たまたま立ち寄った道の駅で購入した小麦粉が気に入ると、すぐに安曇野の生産者さんに連絡、今は契約栽培をしてもらう間柄に。おからは自らがその味に惚れ込んだという大町市の豆腐屋さんに頼み込み、小豆は北海道十勝産を指定して仕入れています。自分が納得できる、いいもの、おいしいものをお客様に提供したいからこそのこだわりです。

 猪乃源の焼きおやきは、味噌なす・辛味噌なす・卯の花・十勝産あずき。蒸かしおやきは、味噌なす・辛味噌なす・卯の花・切り干し大根。具は同じでも、焼きと蒸かしの生地両方の食感が楽しめるのも特徴です。特に秋・冬限定の「辛味卯の花」は、辛さの中にまろやかさある絶品おやき。「中華料理屋をしている知り合いから分けてもらうラー油が味の決め手なんです。魚介類の旨味が溶け出しているから、ここのラー油がないと始まらない」。ここにもしっかりこだわりがあります。
 ほかにも、春限定のふき味噌なす・菜の花の味噌和え・行者にんにくのピリ辛肉団子・のびるの味噌和えに始まり、さつまいもリンゴ・ジャーマンポテト・チーズタッカルビ・豚おやき・ドライカレーなど、一度は食べてみたいおやきのオンパレード。その熱心さには頭が下がります。
 具を作るところから、おやきに仕上げて包装、販売まで、すべて一人で担当する細野さん。必然的に仕込み作業をする日、製造販売をする日を作らないと無理なので、店が開くのは火曜日、木曜日、土曜日のみ。仕込みの日は具を味付けて計量、丸めて冷凍ストックを作り、営業日には生地作りと包餡、加熱、包装までをこなします。
 「一人しかいないので、とにかく時間との勝負なんです」と言いながら、生地を手に取って具を包んでいくその手にはビニール手袋がひったり。もちろん衛生的な面で必要なビニール手袋ですが、おやきの製法によっては素手でしか作れないおやきもありますよね、と聞くと、「このピタッと手に張り付くぐらいのビニ手が作りやすいんです。この生地は素手だとベタついて、おやきが包めなくて」。それだけ独特な生地だということですね。話しながらも、あれよあれよという間におやきが出来上がっていきました。

 開店当時のおやきからは、少しずつ変化してきているのも、研究熱心な細野さんならでは。いいと思っていたことを失敗すると、何が原因なんだろうと考える。生地の水分量、こね具合、膨張剤の比率、焼き時間、蒸かし時間など。そして気付くのだそうです。失敗を重ねて、どんどん改良されていくおやき。「失敗は発明の母ですよ」と笑う細野さんは、失敗とともに自分の経験値を積み上げてきました。
 ふとした時に聞くお客さんの感想も重要なポイント。中でも高齢の人たちからの灰焼きおやきの希望は、細野さんの研究心に火を点けました。「食べたいんだけど、硬いのはもう歯が悪くて食べられない。だからもう少し柔らかい焼きおやきを作ってくれって。それが一番大変でした」。生地の配合、生地の厚さ、焼き加減など、数えきれない失敗を繰り返して1年半。やっとおじいちゃんやおばあちゃんが喜んでくれる焼きおやきが出来上がりました。
 でも、まだ完成ではありません。お客さんからダメ出しをもらう度に改善し、今も完成途上。「自分ではまだ納得していないから、完成じゃない。焼きおやきはまだまだ先がありそうな感じがするんです」。
 お客さんがいて商売をやらせてもらえるという気持ちをずっと持ち続けていきたいという細野さん。その姿勢を貫いて、もっともっとおいしいおやきを追求していってほしい。
 それができるだけの信念とバイタリティに溢れているのだから。


猪乃源
代表 細野ちとせ
創業 2017年
大町市美麻青具16765-3 ℡070-4361-0381

大町市美麻温泉の向かいにある小さなおやき店。火・木・土曜日の週3日営業ながら、遠方から通う常連客も多い。オリジナル「焼きおやき」は渾身の作。こだわりの食材で作る定番おやきは味噌なす、辛味噌なす、卯の花、小豆。季節限定の「辛味卯の花」は絶品。店主ひとりで作るため要予約。

細野ちとせさん

価格 190円、あんこのみ200円(税込)
中力粉・膨張剤

ARCHIVE