文岳堂―松本市

野沢菜

幅7.2㎝x厚さ3.7㎝ 106g 野沢菜塩漬け (醤油、砂糖、ごま油、植物油、かつお節、粉末だし)

なす

幅6.8㎝x厚さ3.5㎝ 104g 長ナス/丸ナス(味噌、砂糖、ごま油、植物油、粉末だし)

あんこ

幅6.7㎝x厚さ3.5㎝ 104g 小豆粒あん(砂糖、塩)

「本屋さんなんだけど、おやきも作って売っている」と聞いたのは何年も前のことです。テレビでも時々見かけて、気になっていた文岳堂。店の前には雑誌や週刊誌の棚が出ていて、やっぱり書店の雰囲気がばっちり。でも入口の上に「本屋さんのおやき」の暖簾風看板が下がっています。興味津々で中に入ってみました。
 入口からすぐの右半分がおやきスペース、左半分が書籍売り場。でも、本業の書店は2021年に廃業し、現在は常連客の雑誌のみ取り扱っているそうです。
 なぜ本屋さんがおやきを売り始めたのか? 誰もが思う素朴な疑問を代表の藤井祐一さんにぶつけました。「2010年頃から急速に本が売れなくなってきてね。奥さんが料理好きだったからおやきも作れるだろうって、わたしのひらめきですよ」。その時は、本の売り上げはしばらくしたら回復するだろうと思っていたそうです。
 東京都千代田区麹町の生まれで、生粋の江戸っ子である藤井さんは、安曇野市明科生まれの絹子さんと結婚したのが松本との縁の始まり。30代半ばで脱サラし、東京暮らしから一転、絹子さんの故郷にIターンして本屋を開業しました。
 「文岳堂」と名付けたのは、本が山のようにたくさんあったから。開業してから15年ぐらいは売り上げがうなぎ上りに伸び続け、文字通り"山のように"本が売れていました。ところが、90年代後半から言われ始めた出版不況の波が信州にも押し寄せて、「昔は松本市に22店あった(独立系の)書店が、今や3店ですよ」。藤井さんは寂しそうにつぶやきます。
 本の売り上げが復活するまでの一時しのぎのつもりだった「おやき」ですが、10年経った今ではこちらが本業に。おやきコーナーには、一番人気のみそぶたを筆頭に、野沢菜・きりぼし・なす・くるみひじき・きんぴら・かぼちゃ・さつまいも・あずきの9種類が並びます。奥には、お茶とお漬物が用意されていて、イートインも可能です。

 ところで、傍らで藤井さんの話を聞いていた絹子さんがぽつり。「わたし、おやきって作ったことがなかったんですよ。母が小麦粉に重曹と酢を入れて作っていたのを見ていただけなんです。それなのに、ね」。えっ、おやき作りが得意だったわけではないのですか!
 絹子さんが作るおやきはふっくらもちもちおやき。膨らし粉は重曹からベーキングパウダーに変わっていて、中力粉にベーキングパウダーと糖分を加えて練った後、1時間寝かせてから具を包んでいきます。
 生地を計量するのは絹子さんの3歳上の姉、青木靖子さんの仕事。おやきを作り始めた時からずっと絹子さんを手伝っている頼もしい助っ人です。手伝いを始める前から頻繁におやきを作っていた靖子さんが、みそぶたの元になった「玉ねぎだけのおやき」を伝授したのだそうです。
 以前は自宅のある塩尻から毎日オートバイで通っていた靖子さんですが、今は週3日、絹子さんが送り迎えしています。2人がそろう日は向かい合って座り、朝8時から午後2時ぐらいまで作ったり仕込んだり。手元を見ると、具がきれいに丸まっています。仕込みの時に具を1個分ずつラップに包んで、冷凍しておくからだそう。だから出来上がりの形がきれいなんですね。少ない人数で回していくには、こんな時短の技も必要です。
 出来上がったおやきはセイロに並べて蒸かします。蒸かし上がったおやきの両面に、ホットプレートで焼き目を付けて、冷めてから袋入れとシール貼り。2人でこれだけの仕事をしていたら時間が足りないはず、と思っていたら、「忙しい時は主人をこき使ってますから。配達もしてくれるし、おやきも作ってくれるんですよ」と絹子さん。
 藤井さんと靖子さんのサポートもあって、絹子さんは「この頃はやっと味も出来栄えも安定してきたかなあ、と思えるようになってきて作るのが楽しいんです」と笑います。でも、まだまだ試行錯誤の連続だとか。

 靖子さんは「この店は定休日がないから、妹は大変なの。休んだ方がいいって言ってるんですよ」と言えば、絹子さんが「卸があるから休めないんですよ。お友達からも働き過ぎって言われてます」。すると「わたしは遊びすぎ。悪いところもなくて健康だし、口数も多い」と靖子さんが大笑い。姉妹の仲の良さがにじみ出ます。
 笑い話にしながらも、靖子さんは休みがない絹子さんを気遣います。「妹は苦労ばかりしているから、体が続く限りはわたしが助けてあげないとね」。帰り際にそっと話してくれました。
 笑顔あふれる姉妹が作るおやきには、愛情がたっぷり詰まっていました。


文岳堂
代表 藤井 祐一
創業 2011年
松本市高宮南7-36 ℡0263-25-9525

「本屋だけどおやき屋」としてメディアにたびたび登場してきたおやき店。売り上げのテコ入れにと作り始めたおやきが、今や主流に。
一番人気は豚肉が入った「みそぶた」で、玉ねぎの甘さと肉の旨味がマッチして優しい味わい。常時10種類ほどのおやきが並ぶ。

左から藤井祐一さん、絹子さん、靖子さん

価格 180円(税込)
生地 中力粉、ベーキングパウダー、糖分

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