ふきっ子おやき―長野市青木島

野沢菜

野沢菜塩漬け、人参 (醤油、味噌、きび糖、植物油、野菜だし、昆布粉、鰹節粉)

l小森丸なす

小森ナス(味噌、きび糖、ごま油、植物油、すりごま、昆布粉、鰹節粉)

ピり辛小森なす

小森ナス(味噌、きび糖、ごま油、植物油、すりごま、豆板醤、昆布粉、鰹節粉)

あずき

小豆粒あん(きび糖、自然塩)

 初代小出冨貴子、つまりわたしの母が嫁いできた時のこと。
 父に「おい、おやきを焼いてくれ」と言われて母が作ったおやきは、母が生まれた上田市辺りで作られていた膨らし粉入りのふっくらおやきでした。一瞥した父は「これはおやきじゃない。こんなおやきを作るんだったら離縁だ。すぐに俺の実家へ行って修行してこい」と言ったそうです。
 長野市川中島地域は二毛作で麦を栽培していたことから、昔から粉物作りが盛んな土地でした。おやきはもちろん作れて当たり前で、しかも水分が多い生地で作る焼き蒸かし製法が主流。水分が多い生地は薄く均等に包むことができ、保水性も上がって硬くなりにくいのですが、一番難しいと言われています。
 母とおやきの長い長い付き合いはここから始まりました。父の実家の兄嫁に、水分量が多い生地でいかに仕上げるかを叩き込まれた母は、父のために1週間に3、4日はおやきだけの夕食を作り、確実に腕を上げていきました。そして昭和61年に開催された「郷土食コンテスト」に参加して優勝。その勢いに乗って、翌年にはおやき屋を開業してしまいました。父が隣の郵便局で局長をしていたことから「郵便局のおやき」と呼ばれ、イベントともなれば3日間徹夜でおやきを作り続けたこともあったそうです。
 そんな環境で育ったわたしはおやきが大嫌い。将来おやき屋になるなんて夢にも思わず、おやきから逃れるように東京の学校へ進みました。しかし、10年、20年経つにつれ、おやきの味が恋しく、お盆に丸なすのおやきがど~んとのった大皿が夢にも出てくるようになっていた頃、母がおやき屋を閉じると言い出し、もう大慌て。トロトロの生地で作る焼き蒸かしおやきを姉妹4人誰も作れなかったからです。わたしは会社に辞表を出して、母のおやき屋で修行が始まりました。母も娘も負けん気が強いので毎日バトルの連続。それでも1年の修行の末に2代目となりました。

 ふきっ子おやきの特徴は、何といっても加水率が9割以上のトロトロの生地。通常おやきは手粉をつけて包みますが、この生地は手水をつけます。手粉では生地が全部手にくっついてしまって包めないからです。片手で持ち上げるようにして生地を手に取り、具をのせ、包むまで3秒ほど。すかさず鉄板にのせて両面を乾かす程度に焼き、側面も鉄板上で1回転させてから、セイロに入れます。
 昔から焼き蒸かしおやきを作る時の必需品は「ほうろく」でした。母は、油を多めに入れて揚げ焼きのようにしてから、セイロで蒸かしていました。
 実は、わたしはそのほうろくが苦手。油に水が入って激しく油が跳ねたり、縁に腕が当たって火傷をしたりするからです。焼き固めるならば鉄板の方が効率がよく、油もあまり使わなくていいし、と、代替わりの際に厚手の鉄板に切り替えました。鉄板におやきを15~20個並べながら同時に焼いていくので、ひとりでも作業がはかどります。
 切り替えたのはもう1つ、調味料。白砂糖からミネラル分が多いきび砂糖へ、精製塩から天然塩へ、旨味調味料から焼津直送接の微細鰹節粉と昆布粉へ。自分自身もアレルギーやアトピーなどに悩まされてきたので、少しでも安心して提供できるおやきにしたいという思いからです。

 わたしのおススメは、修行当初に作ったオリジナルおやき第1号「和のトマト」おやきです。素っ気ない小麦色の表面の中に実はいろいろな具が隠れているおやきは、見た目では何が入っているかわからないのが難点。見てすぐそれとわかるように、生地にはトマトペーストを入れオレンジ色に、具は大好きなラタトゥイユを和風テイストにしました。
 デビュー直後のトマトおやきは、「こんなのおやきじゃない」「気持ち悪い」「門外漢だ」など不評の嵐でした。あまりにも売れなくて、母に「もう作らないで」と言われるほど。それでも美味しいと言ってくださる方もいらして、それを励みに細々と作り続けました。今では「ふきっ子といえばトマト」と言われるほどの定番商品です。
 定番おやきはトマトのほかに、野菜みっくす、野沢菜、きりぼし、にら、かぼちゃ、根菜ごぼう、あずき、そら豆の9種類、季節おやきは毎月2~3種類がラインナップ。特に春の「ふきのとう」「のびろ」、夏は信州の伝統野菜「小森なす」、秋の「きのこの秋」「カフェおさつ」、冬の「野沢菜かぶ」「びびんば」が人気です。
 言うまでもなく、おやきは郷土食。昔から作り継がれて未来へと繋げていくべきものです。おやきを売るだけでなく作り伝えていかなくてはいけない、という強い思いから、数年前からさまざまな製法のおやき作りを教え始めました。
 家庭で作られてこその郷土食です。おやき店ではありますが「おやきは買うものではなく作るもの」をモットーに、おやきの伝道師として、これからもどんどんおやきを作る人を増やしていきます。


ふきっ子おやき
創業 昭和62(1987)年
長野市青木島1‐3‐1 ℡026-284-2934

長野市川中島地域に伝わる「焼き蒸かし」おやきの店。水分量が多いトロトロの生地を鉄板で焼き固め蒸かす。
毎月変わる季節おやきや調味料にこだわり、リピーターも多い。店主はおやき教室や粉もん講座の講師も務める。

小出さん(中)とスタッフのみなさん

価格 150円(税込)
生地 配合粉(中力粉、加工澱粉)

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