デナリとグリズリー

 1頭のグリズリーが、デナリ(旧名マッキンリー)という北米最高峰の山をバックに写っている。
 この写真を撮影したのは9月1日。一晩にして新雪に覆われてしまった中を、このグリズリーが食べ物を探して彷徨っていた。本来であれば10月の冬眠に向けベリーを1日中食べている時期である。それが雪に閉ざされてしまったので、土中に住んでいるジリスを食べようとウロウロしている。
 「季節外れの大雪で、大変だろうな」
 そう思いながらファインダーで彼の姿を追う。彼は地面を掘ってはジリスを追い、穴を潰して閉じ込め、ついには捕まえる。20分かけて捕まえた獲物をものの十数秒で食べ終え、また次へと向かう。慌てるそぶりも苛立ちも悲しみもなく、彼はどこまでも淡々としていた。そして僕は気付いた。「季節外れ」だなんて、季節に線引きをしている自分だけが感じていることなのだと。
 周囲何十キロに渡って誰もいない原野。そうかー、こうして僕は頭で考えてしまっているのか、と照れ臭くなった。彼らにとっては、雪が降ったからジリスを獲ることにした、ただそれだけのこと。それを遥か昔から続けてきただけなのだ。

 アラスカにある手付かずの自然と、そこに生きる生き物たちを被写体にして撮影に取り組み始めたのは2015年。日本のみんなに「地球」について考えたり、感じたりする機会がもっとあって欲しいと思ったからだ。
 地球に生きている以上、年齢や立場や考え方を問わず、気候変動をはじめとする地球規模の急速かつ異常な変化や、この星のどこかで起きている事象と僕たちは必ず相関している。裏を返せば、我々の日常の行動如何では、未来により良い環境を残せるのだとも言える。
 日本にいる僕たちも、アラスカに住む生き物たちも、みな等しくこの星に属している。忙しくても暇でも、貧乏でも金持ちでも一緒だ。数年とか数十年とか、持っている時間を生きるだけだ。そのことを、全力を注いで伝えようと覚悟を決めたのが2015年というわけだ。それ以来、年に3~4カ月はアラスカの原野に入り、テント生活をしながら撮影を続けてきた。日本にいる間は写真展や講演で発表している。

 「遠征中に最も感動するのは?」
 これはよく聞かれる質問の一つで、自分の常識や概念が変化するとき、と答える。
 夏至の頃、アラスカは白夜となる。北極圏では深夜1~2時頃になると、地平線に近づいた太陽が世界を茜色に染め、見た目には"夕日"になる。しかし、太陽は沈むことなく高度をあげ、"昼"になる。こうして24時間注がれる日差しの中で撮影していると、いつしか僕の中の"夜"や"日の出"などの概念が変わる。地球規模で自分の在る場所を捉えるようになるとでも言おうか。
 白夜という現象が、僕の中のものの見方、言うなればモノサシを書き換えてくれたのだろう。日本では出会うことのないアラスカの光景やそこに生きる生き物たちが携えているモノサシを、この連載を通じて共有したい。

ARCHIVE