壮大なタイムスケール

 アラスカ州の州都はジュノーというところだが、最大の都市はアンカレッジだ。航空機の航続距離が長くなかった90年代の初めまでは、アンカレッジの空港に下りて給油することもあったので、名前を聞いたことのある人も多いと思う。ここから北に行くと、徐々に木々も減って荒涼としていき、人口も少なく寂しい雰囲気になっていく。しかし、アンカレッジの南側はまた違う雰囲気で、アラスカ鉄道も走っているし、釣り人や観光客も多く、サマーシーズンはどこも賑わっている。

 アラスカの氷河を見るには、アンカレッジの南東にあるウィッティアやアラスカ鉄道の終着点であるスワードという町から出ている氷河観光船が面白い。中にはカヤックなどで海に出るツワモノもいるが、簡単かつ安全に氷河を見るには観光船がいい。半日か1日コースで見られる氷河の数や動物が変わってくるので、せっかくなら1日船で過ごすのをすすめたい。氷河から吹き下ろしてくる風は想像以上に冷たいので、防寒着を忘れずに持っていってほしい。酔い止めを必ず持つことも言い添えたい。
 氷河とはなにかというと、文字通り巨大な氷の塊で、その成り立ちは興味深い。
 地球が生まれてから数十億年の間、太陽の周りを回る公転軌道や自転軸の傾きが多少変化することで、太陽との距離や受け取るエネルギー量が変わり、温暖と寒冷を繰り返してきた。数度は全球凍結もあったとされている。
 その中でも、もっとも現代に近い氷期(約7~1万年前)に堆積した雪や氷が、自らの重みや重力で圧縮されて出来たものが現存する氷河だ。今は間氷期と言われる氷期と氷期の間の温暖の時代であり、世界中の氷河が溶けている。何万年後の未来になるかわからないが、氷河や氷床が陸地に迫ってくる時もくるのだろう。そうした数万年や数億年ものタイムスケールで凍って溶けてをくり返す水と氷の物語がなんとも壮大で、僕は好きだ。
 ヒトの経済活動が温暖化に拍車をかけているのは言うまでもない。しかし地球と太陽との距離などが、地上に大きな影響を及ぼしているのも事実だ。氷河は、地球規模で物をみたり、長いタイムスケールで物事を測るモノサシとしても一役買ってくれている。"オーロラ"のほかに"氷河"も、アラスカで見たいものリストにぜひ加えてほしい。
 余談になるが、日本の北アルプスエリアにも氷河がある。アラスカとは物理的な規模こそ違えど、同じタイムスケールを携えた氷河が日本にもある。なんだかワクワクしないだろうか。長野県大町市の山岳博物館には氷河研究の展示もあるのでおすすめだ。

氷河は、読んで字のごとく、氷でできている。決してふわふわの雪ではない。なので、すごく硬い。転んだりして体をぶつけると、コンクリートにぶつけたのと同じくらい痛い。以前、飲み水に困り、氷河の小さな塊をバーナーで溶かそうとしたことがあったのだが、雪を溶かすより何倍もの時間がかかった。この高密度の氷をグングン溶かす太陽のエネルギーは凄まじい。このエネルギーと温室効果が組み合わされば、地球全体を暑くもするのだなと感じる。
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