野生になれない

ヤナギの若芽を食べているマーモットに会ったことがある。
次から次へと枝を引っ張り、口元に引き寄せてはがつがつと食べていた。マーモットは決して表情豊かな生き物ではないのだが、夢中になって食べている様子は「うめ~」とでも言っているかのようだった。
いつだったか、地面に住むジリスが巣穴から出てきて、ツンドラに咲く黄色い花を食べているシーンを目撃したことがある。4~5日前までは咲いていなかった花だ。1~2分の間、彼は味見をするかのようにあちこちの花に手を出しながら、黄色い花をたっぷり食べると満足そうに帰っていった。
そのジリスを捕まえ、子の待っている巣に向かうキツネを目撃したこともあったし、そのキツネを見た場所で9月、べリーをついばむライチョウを見たこともある。野生動物の食事シーンはそう頻繁に見られるものではないが、クマでもリスでもドールシープでも、彼らに共通して言えるのは、実に美味しそうに食べるということだ。
アラスカでの遠征中、僕は10日~2週間程度の装備と機材を背負って原野に入る。そして食材かバッテリーがなくなる頃、車か町に戻って補充して、また撮影に出る。帰国までこれの繰り返しだ。
撮影中の楽しみはやっぱり食事。だが、背負える量には限りがあり、フリーズドライや乾物ばかりになる。それだって十分美味しいのだが、アラスカの原野に生きる動物たちを見ていると、彼らの食生活をうらやましく思うことがある。その時そこにあるものを食って生きていけるからだ。僕はというと、ほぼ全ての食材を持ち込まないといけないし、フライパンひとつ、バーナーひとつなくしては調理することができず、生きていかれない。
彼らは、季節ごとに一番美味しいものや栄養価の高いものを選び、食べる。しかも調理もせずに、だ。自然界では当たり前のことなのだろう。それはそうだ、食生活が下手なやつは子孫を残せない。その当たり前の姿を見ていると、シンプルに「調理もせずすごいなあ、美味しそうでいいなあ」と思ってしまう。僕も真似をしようとしてみても、せいぜいツンドラになっているブルーベリーくらいしか食べられない。
野生の生き物のように、当てもなく原野を彷徨うことで、彼らの自然な姿を撮りたい。そう思ってアラスカを歩いているのだが、食生活においては、いや食生活においても、僕は野生にはなれないのであった。

