北へ向かう ―タイムラプスを撮る その2

 ガレージから出ると、チョウがピザを買ってくれていた。それも「これから数週間、またベジタリアンになるんだろ?」と大量の肉が載っているものだ。モテる男はやはり気遣いが違う。まさにアメリカ、と言える大きなピザで、3切れも食べれば僕は満腹になった。残りのピザは、車中で食べるようにラップに包んでもらった。これから7時間を超える長距離ドライブが始まるのだ。パソコンを開き、日本にいるみんなに最後の連絡を済ませ、荷物のトリプルチェックをして、出発の時を迎えた。見送ってくれたチョウに「2~3週間ほどで戻るよ」と伝え、僕はホステルをあとにした。
 北に向かう道路に乗る前に、市内で買い物を済ませなくてはいけない。まずは不足している食材、乾麺、ナッツ類やチョコレートなどの行動食、大好きなベーグルなどを買った。車の上に積んでいる3つの20リットルのコンテナにガソリンを満タンにした。いつも思うが、ドルから円、ガロンからリッターへの計算が面倒で、1リットルいくらなのかすぐにはわからない。この時は大体90円だったと思う。
 ガソリンを積んだら、いよいよ北極圏へ向かう。街から30キロほど走ると、いわゆる人里を離れる。ガソリンスタンドも、もうない。さらに70キロほど行けば、舗装道路とガタガタの未舗装道路が半々くらいになってくる。ここからの約400キロのドライブは、緊張の連続だ。地面に大きな穴が空いていたり、尖った石が落ちていたり、トラックとすれ違う時に大きな石が飛んでくることもある。ハンドルを握る手に力が入り、1~2時間も走るとすっかり疲れてしまう。
 初日は遅い時間に走り始めたこともあり、もう午前2時をまわっていたので、道路から少し入ったところに土を積んである広い場所を見つけて車中泊をした。眠くないような、でも少し頭がぼやぼやしていて、時差ボケがあるような気もしたが、「寝ときなよ」と自分に言い聞かせ、寝袋に潜り込んで目を閉じた。車中泊のうちに、できるだけ睡眠を確保しておきたい。
 翌朝、といっても9時をすぎていたが、鳥の声で目覚めた。一瞬、自分がどこにいるかわからなかった。
 「ああそうか、アラスカかあ」
 そう思いつつ外に出て体を伸ばす。羽田からフェアバンクスまでの飛行機2本と200キロほどのドライブで、すっかり体が固くなっていた。タイヤに足をかけて前屈をしながら、「そうだ、この瞬間も、周辺にはクマやムースがいるんだったな」と気を引き締める。ベーグルを半分に切ってフライパンで温めてから食べ、積んであるガソリンで給油をして、再び北に向かう。「ええと、道路の右側だったっけ」と考えないとつい左側を走ってしまう。
 天気が良く明るい日で、昨夜より路面は確認しやすかった。途中、道路上で追いかけっこしているリスを轢いてしまわないように注意深く避けながら走り続けて、16時頃には目的のブルックス山脈のエリアに入った。このエリアのコールドフットと呼ばれる場所に、宿泊施設とガソリンスタンドとビジターセンターがある。ゴールドラッシュの時代の移民村の跡のようなところだ。センターは閉館していて、入り口には「See you next summer! 」と張り紙があった。北極圏の短い夏はもう終わったようだ。

コールドフットにて。北極海で採れるオイルを管理する会社の大型トラックのドライバーが休憩するポイントでもある。
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