長いアプローチ ―タイムラプスを撮る その3

 コールドフットまで来たら、やらなければいけないことがある。日本で遠征のプラン中に「ここだ」と決めていた場所にアプローチできるかどうかをチェックするのだ。
 地図上で良い場所を見つけても、実際に行けるかどうかは、現場を直接見てみないとわからない。車で来ているので、安全に駐車できる場所を見つけ、そこから目的地までの間の距離や、谷や尾根の状況を確認する。あまりに遠くては、目的地に着く頃に食材が無くなってしまうし、標高の上げ下げが過ぎれば、僕のスタミナが空っぽになって撮影どころではなくなってしまう。
 目的地周辺を車で行ったりきたりしながら、情報を増やしていく。南から北から、何度か見ていくうち、取り付きやすそうな谷を1本見つけた。多少無理をすれば車も置けそうだ。
 最後にもう一度、北へ向かいながら「ここが今回の北限かな」と思う辺りで車を止めて外に出た。19時頃だっただろうか。だんだんと暗くなっていた空がみるみるうちに赤く染まってきた。久々に北極圏で見る夕焼けだった。真っ赤だった。「あか」と口にしてしまうほどに。

 夕焼けを眺めた後、少しボーっとしてからまた南へと戻った。昨夜と似たような、もともと土場だったと思しき場所に車を止めて休むことにした。多少はフラットなところに止めないと、眠っている間にずりずりと車中の低い方へと落ちていってしまうので、平らな場所を探すのに余計に時間を食った。明日からはテント泊、平らなところで眠れる保証はないので、車中で安全な睡眠を貪った。
 翌朝、明るくなってすぐに車を目的の場所に移動させる。狙いの谷に近い森の中に止めた。誰も来ないとは思うが、運転席と助手席の窓に「○日までに戻る。心配しないで」と書いて貼っておく。パソコンは背負っていけないので、後部座席のシートの下のカバーの中に隠す。
 このぐらいの頃から、心地悪い胸のドキドキを感じ始める。これから10日~2週間、補充がない中での撮影が始まることに、いまだに緊張させられるのだろう。緊張感に急かされて忘れ物だけはしないよう、何度も確認をしながらザックを準備する。気温は0度程度だろうか、ヒップブーツでは寒そうなので、冬用のブーツで歩くことにした。
 8時頃、準備を終え、コーラでも飲んどくかと缶を1本開ける。車の鍵を閉め、カーバッテリーが上がってしまわないよう非接続状態にし、いよいよ出発。歩き始めはザックが肩に食い込むのが辛いが、数日したら慣れるのがパターンだ。
 最初の2時間ほどは割と平坦な道のり。30mほど低いところに流れている川を見下ろしながら、東へと向かう。徐々に標高を下げ、川と同じ高さになってからは、進むほど茂みが濃くなってきた。こうなってくるとよくない。視界が悪いと、動物と突然出会ってしまったり、足元が見えないので怪我をしたりだけでなく、今自分がどこにいるのかわかりにくくなるからだ。
 とりあえずクマスプレーを出すが、枝が多くなると、やたら引っかかって、ポケットに入れているものやザックにくくりつけているものは全部ひっぺがされてしまう。取り返しがつくものが無くなる分には構わないが、クマスプレーをなくすのは精神衛生上良くない。
 一番早く手が届くカメラバッグの入り口にスプレーをしまい、枝と格闘しながら、少しずつ谷を詰める。帽子もはがされてしまうのでザックにしまったのだが、耳が冷たい。日陰の気温は0度を下回っているらしい。沢が所々凍っている。

撮影中、基本的にお昼ご飯はなく、お腹がへったら行動食をつまむ。
日のあたる時間が極端に短いのだろう、もう沢が凍り始めていた。
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