藪こぎと凍る沢 ―タイムラプスを撮る その4

 藪を抜け、沢と交差する瞬間は視界が開ける。しかし、それ以外はかなり濃い藪が続いていた。
 沢を遡上してしまえば藪は避けられるので楽に歩けるのだが、冬期用のブーツでは水には入れない。渡れそうな場所を見つけて、岩を "けん けん ぱっ" しながら、また藪に突入する。
 帽子をはじめ、体に着いているもののほとんどは外してザックの中にしまった。視力は確保したいので、メガネは外せない。バチバチと枝が当たって、どんどん傷ついていく。「ごめんメガネ」と思いながら、藪こぎから1番早く抜けられそうな道を探しながら歩き続ける。この谷さえ抜ければ、ツンドラの開けたゾーンに入れるはずなのだが。
 早く抜けたいが、慌てるとミスが大きくなる。深呼吸をして、藪の中に腰を下ろし、お湯を飲んで行動食を口にした。改めて周囲を見回すと、左右の山の斜面は急すぎてやはり取り付けそうにない。地図上ではあと千数百メートルで進入できるカール地形が現れるはずだ。
 あと少し、我慢我慢。ブーツの中に溜まった枝葉を取り出してから、ヨシッと気合いを入れて立ち上がる。
 沢が少しづつ太くなってくるにつれ、一見、氷が沢を覆っているように見えるほど、氷の割合が増えてきた。氷が厚ければその上を歩けるのだが、体重を預けられるほどには発達していない。恐る恐る岩と氷を選びながら沢を渡る。
 氷を踏み抜く時というのは、体重の8割くらいまで預けられるのに、最後の2割くらいで割れるもんだから、思わずワッと声が出てしまう。靴を濡らしたくないので、慌てて次のステップを踏むと、そこも踏み抜いてしまうことが多い。情けない "一人ダンス" を踊っているかのように、必死になって渡る羽目になる。
 そうした渡渉を何度か繰り返していると、視界の右側の急峻な斜面の先に、光が当たっている明るい斜面が見えてきた。あそこに取り付ければ、だいぶ歩きやすくなる。すがるように明るい方へと向って藪を進んだ。光に群がる虫かよ、と自分が少し笑えたが、とにかく、もう少し開けた場所に出たい気持ちが、歩を早めさせる。
 開ける直前、ピッチの短い段々畑のように崩れた斜面が現れた。おそらく、春に雪が溶ける時に土砂崩れのような格好で崩れたのだろう。ザック2つを背負ったままでは越えられない高い段差は、ザックを上にほうり投げてから、自分の体だけでよじ登る。カメラザックはダメージを避けたいので、放り投げずに細引きで引っ張り上げた。
 はあはあ、と息をつきながら、標高でいうと50mほど高いところにたどり着いた。第一関門突破といいうところだ。ザックをおろし一息ついて、しまっていた腕時計をつけると、時間は14時をすぎていた。空腹は感じていなかったが、 "ランチ" という行為を取りたくなった。
 しかしここは、四方のうち一方しか視界が良くない。他の生き物と突然に出会ってしまうかもしれない。休みたがっている体に鞭打って、さらに30分ほど登り、見通しの良いところを見つけて、盛り上がった木の根っこに寄りかかってベーグルを食べた。

最後の川で、カメラのレンズだけをザックの隙間から出して撮った1枚。谷の中は暗いため、手振れしてしまった。
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