お月様に導かれて ―タイムラプスを撮る その10

 体が落ち着きを取り戻した後、これからの行程を考えた。時間的にははまだ2時間近く歩ける。大事をとって、今日はもう進まずここにテントを張ろうか。
 しかしこの時、「もうちょっと行った先に池があるのではないだろうか」と漠然と思っていた。数日前、チョウのところで最後にGoogleマップを確認していた時、タイムラプスの目的地に設定した稜線の南麓側に池らしきものがあったのだ。
 その池畔まで辿り着けたら理想的だ。水にも困らないし、目的の稜線を下から観察できる...。

 池があるかないか、確信なく突っ込むのはリスクが高い。安全策を残しつつ、手持ちの情報を増やそう。そう決めて、まずは登れそうな山に登ることにした。広大なアラスカの原野では、目線が少し上がるだけで視覚的情報量が大きく変わってくる。200メートルも上がれば、かなり遠くまで見渡せる。もしその高さから池が見えれば、なんとか今夜中につけるだろう。
 野生生物にザックごと食料を漁られないよう、ザックから100メートルほど離れたところに食料コンテナを置いた。体力の消耗を防ぐためにも、軽い装備で登山しなければならない。なるべくシュラブの少ないところを選びながら、腕時計の高度計で大体の標高を確認して標高を上げていく。
 150メートルほど標高を上げると、東のずっと先に、谷の突き当たりのようなカール地形が見えた。さらに登ると、カール地形の中心部の低いところに池が見える。Googleマップでは小さな池だったが、やはりこれも湖と呼べそうなほど大きい。直線距離で2キロちょっとというところか。状況によっては時速1キロを切るかもしれない僕のペースでは、3時間はみておきたいところだ。
 池と逆方向の西を見つめると、遠くの斜面にドールシープがいた。撮りたい気持ちにかられたが、体力やバッテリーはなるべく消耗を抑えたい。見なかったことにしようと言い聞かせた。空を見ると、風はビュンビュンと吹いていたが、高いところにあった雲もいつの間にかなくなっていた。「やれることは全部やっているか」。いつものようにそう自分に問いかけ、今夜の作戦は決まった。

 ザック2つが待つ場所まで戻り、このタイミングで夕食を取ることにした。先にエネルギーを補給して、夜になっても歩き続ける作戦だ。ピッケルで割った氷を溶かして夕食を作り、水の残量も増やした。ちょうど陽が落ちた頃、ヘッドライトを頭につけ、歩き始めた。
 カメラはもうオーロラのモードに設定してある。うまくいけば、湖とそこに反射するオーロラが撮れるだろう。一抹の期待を胸に、相変わらずシュラブと格闘しながら進む。
 陽が沈んで1時間弱経った頃、ヘッドライトを点けた。その1時間後に上がってきたまんまるのお月様のおかげで、ヘッドライトを消しても歩けるほどに明るい。進行方向左にある山の斜面からつかず離れず歩けば湖に到着できるので、稜線で月明かりを反射している新雪を目印に進む。密だったシュラブが閑散としだしてからは快調に進み、21時頃、やっと湖が見えた。少し高いところから湖を見下ろし、ヨシッとため息半分で口にした。

 高台から湖まで、ずっと緩やかに下っていたので、平らそうなところを探してからテントを張った。汗で冷たくなったインナーから乾いたものに着替え、分厚いダウンを着ると、湖畔に三脚を置き、カメラを据えた。地面に座ると星が瞬いていた。ふつう、月が明るいと星は見えにくいのだが、星の瞬きが印象的な夜だ。
 しばらくすると、オーロラが現れた。昨夜ほど強くはないが、音もなくゆらゆらと、北極圏の空を踊っている、こんなオーロラも好きだ。月とオーロラが湖に反射していたら、もう少し格好よかったが、止むことのない強風が湖面を掻き乱して、そのカットの撮影は叶わなかった。

湖と逆方向の西を見ると、ドールシープの群れがいた。撮影に戻りたい気持ちをグッと抑えて稜線へと向かう。
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