撮影前夜 ―タイムラプスを撮る その12

 いつからここにあるんだろう。そう思わせるような岩が数え切れないほど重なっている。どの岩も、数万年前はアラスカの他のエリアと同じく氷河に覆われていたのだろう。それより前、例えば日本でフォッサマグナができ始めた頃(約3000万年前)ここはどんな地形だったのだろう。そんな答えの知れないことを思いながら(というか、そんなことでも考えていないと歩き続けられないのだが)、歩くこと3時間半。ようやくゴールが見えた。視界の左上方にある岩場のトップが狙っていた稜線だ。欲を言えば、あと数百メートル東の岩場まで行きたかったが、急峻で足場が悪そうな上、テントを張れそうな場所もない。ここで撮ろう。そう決めた。
 天国ゾーンからは撮影機材だけを背負ってきていた。天気が良いうちに、もう一つのザックを撮りに戻らないと行けない。でも少しだけ撮ろうかな、10枚だけ。そう決めて、三脚にカメラを据えて一番高いところに向かった。視界は開け、想像していた通りの北極圏の光景が広がっていた。
 地平線まで見渡せる。が、それより何より風が強い。北から吹き付ける風が強く、目を開けていられない。三脚ですら、風下の1本を他の2本より少し高くしないと倒されてしまう。こりゃダメだ。「ちょっと撮る」というような環境ではなかった。いったん20メートル程下に隠れるように駆け下りた。そこも強風は吹いているが、上の稜線ほどではない。岩に腰を掛け、改めて優先順位を確認した。明るいうちにテントを張らないと行けないのだが、この風では張るのに時間がかかりそうだ。ともかくまずはザックを取ってこよう。
 道がわかっていると足取りは早い。迷うことなくザックの元に戻り、トンボ帰りで稜線へと戻る。一度上から見ているので、危険な箇所以外は尾根を歩いて戻った。その分、先程の7割程度の時間で稜線へと戻ることができた。

 風は相変わらず強く吹いていた。普段ならものの1~2分ほどで張り終えるのに、風に吹かれて暴れるテントを押さえながらなので随分と時間を食った。なにせ風に踊って地面に着地してくれないのだ。なので、そこらに転がっている岩をテントの中に敷き詰めながら、なんとか張り終えた。2泊か3泊するであろう我が家の完成を祝い、少し早いがいつもより豪華なラーメンを作って食べた。やはり温かい食べ物は良い。体も心もほっと一息ついた。
 テントから出て岩に腰掛け、改めて今回のタイムラプス撮影を検討する。
 今は10月頭。緯度は68度程度。朝の8時頃に真東よりやや南から太陽が出て、11時間ほど南側を回ってから沈み、夜が来て、月が出て、オーロラが舞って、月が沈む前に次の日の出がある。そんな北極圏の自然の営みを、できれば48時間ほど撮りたい。そのための機材やケーブル、バッテリー類をカメラに装着する。
 準備している間もびゅうびゅうと風が吹きつけているので、首が冷たい。分厚いダウンを羽織って、帽子もかぶった。「こっちから太陽が出てきて、こう回って...」と山脈の向こうを指差し確認してみたが、正直、直接目で見てみなければ日の出や月の出の位置がイメージ通りかはわからない。今までの勘と感覚も頼りにして、画角を調整した。

テントの内張りを張った時の様子。ザックだけでなく、岩も敷かないと飛ばされそうだった。実は数日後、片付ける時には飛ばされてしまい、回収が大変だった。
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