I'm back ―タイムラプスを撮る その15

 夜空には、星と薄いオーロラも光っていて、日の出はバッチリ見えそうだった。しかし、数時間空いてしまってはタイムラプスは成立しない。タイムラプスは昨夜で終わりにするしかなかった。
 なんとも口惜しい。が、ここで悔しがっているのはクリエティブじゃあない。そう自分に言い聞かせ、まずはダウン、手袋、帽子、手首ウォーマーを着けに戻った。三脚の周りの岩を片付けようとヘッドランプをつけると、当たり前だが明るかった。今まではタイムラプスに映ってしまうから使わないでいたのだ。もう、気を遣わなくていいことが悲しかった。三脚を囲んだ岩をできるだけ元の位置に戻し、テントの中で下山の準備をしていると、東の地平線の低いところがほのかにオレンジ色になってきた。
 日の出と逆側、西側の地平線を見ると、水色~ピンク、薄い紫に染まっていた。こんな色があるのか。そう思うことが今まで何度もあった。忘れたくないと思っても忘れてしまう不思議は、これからも経験するのだろう。

 荷物を7割程度まとめ、最後の日の出と短いタイムラプスを撮ろうとしている時に、テントが飛ばされて、三脚が風で倒されてレンズが壊れるなどのハプニングが重なった。まさに踏んだり蹴ったり。1週間以上に渡って吹き続けたこの風には、車に戻った後も手を焼かされた。
 下りは道がわかるので、ザックを2つ背負って降りることにした。風は強いが視界は効くので、うまく行けば明日には車に戻れるだろう。頭の中でルートをたどる。水も途中で汲めるし、問題はないかな。ああ、そういえばまだクマを見ていない。油断していると突然出会ったりするものだから、クマスプレーをカメラザックの横のポケットにしまった。2泊お世話になったテン場に別れを告げ、まずは湖へと下る。
 延々と歩き、さらにシュラブの岩場を歩いている頃、ドールシープの群れに出会った。4日前に見かけた群れかな。「この間会った人たちですか?」と聞いてみたけど、やはり返事はもらえなかった。こんな当てのない原野で、一体どうやって暮らしているんだろう。ゼエゼエ言って歩いている僕の何倍ものスピードで原野の向こうに消えていった。

 夕方には、先日置いたデポにたどり着いた。誰にも荒らされずに岩陰で僕を待っていてくれた。無事にデポまでかえってこられて嬉しかったのを覚えている。カメラのバッテリがまだ少し残っていたので、 デポ回収の動画を撮った。食料と燃料の残りを気にしなくて良くなったので、安心してその夜はラーメンを2食いただく。まさに"いただく"という気分だ。テントの入り口を開け、空を眺めながら横になっていたが、この夜はオーロラはほとんど見られなかった。
 翌日も歩き通し、夜の19時、車に着いた。エンジンも無事起動し、これでこの撮影行はほぼ完了だ。コールドフットまで車で戻り、シャワーを浴び(1500円!)、有料のインターネットを繋ぎ(1100円!)、天候をチェックし、メールの返事を書いた。この夜は、人が周辺にいるコールドフットの近くで、安心感でいっぱいの車中泊。フェアバンクスに戻り、チョウを見つけ、「I'm back」と言う瞬間が近づいていることが嬉しかった。

帰りの道中に会ったドールシープの群れ。20頭ほどで暮らしていた。
ARCHIVE