装備は大事なパートナー ―冬のアラスカを撮る その5

 誰もいないアラスカの原野で、「待った?」と声をかけることがある。何に対してか。悲しいことに、ザックに対してである。
 原野の道の先を見に行く時、身軽で行くためにザックを目立つところに置いて、数分~数十分後に戻る、ということがあるのだが、その時にザックに対して言うセリフだ。2週間ほど放置したマイカーに対しても言ったことがある。そういえば、テントに話しかけたこともある。これはつまり、装備や機材は遠征を重ねるほど大事なパートナーになるし、欠かすことのできないものだということなのだと思う。(決して寂しい、という理由だけではない。はずだ)
 カメラザックに機材と行動食を詰めて撮影に出ようとしたこの朝も、装備のおかげでなんとかなった。朝食を終え、出かけようとした時、ひどく背中が痛んでザックが背負えなかったのだ。首から右の肩甲骨にかけて痛み、ザックに腕を通すのが困難だった。左手でカバーすれば、テント内では背負えるのだが、深い雪の上でスピーディーにレンズ交換などはとてもできない。どうしようか考えた。もう今日は休もうか。迷った。
 しかし、この場所にいる1日がどれだけ貴重か、自分が一番よく知っている。ザックを持たず、カメラ2台を下げて撮影に出ればいいじゃないか、と思った。でも、いつも持ち歩いているのに、なぜ今に限ってあのレンズを持っていないのか?と思うような経験が何度もあるのも事実だ。やはり交換レンズ数本は持って撮影に出たい......。
 解決方法は身近なところにあった。ごく簡単なことで、アウターのジャケットにたくさん付いているポケット、ここにほとんど入ってしまったのだ。長さ30センチのお湯ポットだけはうまいこと収納できなかったが、交換レンズ3本、バッテリー、行動食、予備のダウンや細いロープなど、すべてジャケットに収納できた。カメラザックほどのクッション性はないので固いところにぶつければレンズにはダメージが行くが、幸い外はフカフカの雪だ。レンズ交換の問題はクリアできた。このジャケット、僕のアラスカ撮影にはドンピシャじゃないか、と改めて装備に感謝した。

 この日は風が強く、小さな砂のような雪がテントに叩きつけていた。ポケットの中にも雪が入ってきそうだな、と思い、レンズは全て防水パックとジップロックで包むことにした。立ち上がる時にも少し背中が痛んだが、幸いにも歩き始めると痛みは感じなくなった。テントに戻ったらしっかり体のケアをするから、撮影中はもってくれ。そう祈って歩き始めた。
 スノーシューを履いて、川の方へと下っていく。前日に途中まで歩いておいたおかげもあって、随分歩きやすい。昨日つけた足跡は新雪にすっかり隠れてしまっているが、このトウヒの木を右に曲がったら、枝先だけ顔を出しているところに向かってまっすぐだったな、などと記憶を追いかける。一度踏み固めてあるので、見えていなくても、踏み跡をたどって歩けるのも楽だ。
 ただ、踏み跡を外すとズボッと沈んでしまい、思わず「わっ」と声が漏れてしまう。沈むと起きるのが辛い。なにせフカフカなので、どこに体重をかけて立ち上がろうとしても沈んでしまう。おまけに今日は背中も痛む。ピッケルを雪に刺して硬さのチェックをしながら進んだ。周りから見たらなんとも情けない姿だ。何もないところを恐る恐る一歩ずつピッケルを刺しながら歩いているのだ。2時間ほど歩くと昨日つけた足跡の端っこまで来てしまった。はあ、またラッセルで進まなくちゃ。一息入れるために、周辺を踏み固めて、腰をおろしてポケットの中のチョコを食べた。

 それにしても、全く生き物の気配がない。風が強いせいか、小鳥も1羽も来ない。まさかこのまま1週間以上の時間を棒に振ってしまうのか。
 一度車に戻ってから撮影エリアを変えるか、思い切って一山超えるか。今夜、脳内会議にかけなければならない。

オーロラジャケットを着て冬の森を歩く。このたくさんのポケットが冬の撮影の大きな助けになった。
降雪量の多い夜は、翌朝テントを開けるときには気をつけないといけない。ドドっと中に入ってきてしまうからだ。
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