川底へ伸びる青い氷 ―冬のアラスカを撮る その6

 休憩はやはり大事だ。疲れていて、息が切れている時とは判断力が違う。体力の回復と同時に、周辺を観察し、現状を分析して冷静になれるからだろう。
 しかし、実はふわふわ雪の中での休憩は、観察に向いていない。というのも、座れるよう踏み固めると、笑ってしまうくらい視界が低くなるのだ。ひどいと、周りの雪に隠れてほとんど視界を失うことすらある。もっとも、風を避けたい場合にはそれは好都合だったが。
 幾度かの休憩を経て、川が近付いてきた。川沿いは視界もよく、歩きやすい。きっと生き物の足跡が何か残っているだろう、いや残っていてくれ。すがるような思いで川に近づくと、いつの間にか平らになり、歩きやすくなった。ところが、新雪と曇りのせいで陰影がついておらず、雪の境界線がわかりにくい。今までは下りだけだったのでよかったが、ここは凸なのか凹なのかイマイチわからなくて何もないところでもつまづいてしまう。
 そんな中、上流に行くか下流に行くか考え、うろうろしていると不思議なことに気づいた。どこかから水の流れる音が聞こえるのだ。そんなはずはない。まさか、と思いながら、凍った川の上を真ん中あたりまで行ってみると、「あっ」と声が出てしまった。
 氷と雪がところどころ口を開け、流れる水と川底が見えているのだ。大きいところで数メートル四方、小さいと数十センチ四方の穴だ。おそらくあと1~2週間もすれば完全に閉じるのだろう。氷と雪が混ざり合う姿は、アラスカが冬に閉ざされる直前の様相といったところだろうか。

 今回アラスカに着いてから雪か氷しか見ていなかったので、水があることが新鮮だった。と同時に、踏み抜いて川に落ちないようにしなければと気付く。流されてしまうほどの深い川ではないが、雪用のブーツは川に浸かると水が滲みてしまうので、凍傷になりかねない。ちょっとしたミスが死へのカウントダウンにもなる。ここは慎重にならなくては。
 だんだんと閉じていく川の様子を撮るべく、入れそうな穴を探す。しかし、どの穴の縁の雪もフカフカで、雪が崩れると這い上がるのにかなり体力を消耗しそうだ。水流に触れずに川の真ん中にある岩に着地できれば良いのだが。
 一息入れる。面倒な気持ちもあったが、大事を取ることにした。ポケットに入れていたロープを腰のカラビナに結び、河岸の木の幹に回した。もう一方の末端もカラビナに通し、体の後ろでがっちりとホールドする。懸垂下降の要領で、後ろ向きで穴に入ることにした。案の定、縁の雪が崩れ、体勢を崩したが、硬い体を目一杯伸ばして岩に片足をついた。久々、いや、この遠征初めての本格的な撮影スイッチが入る。
 水流の中心から覗くと、川を覆う雪の裏側に、上から川底に向かって氷が伸びていた。場所によっては着水しているものもある。氷と雪の青い世界。どこか恐怖心を煽るような妖しい美しさだ。
 氷の立体感が出そうなちょうど良いアングルを見つけたが、水面に近いところで、ファインダーを覗くのが難しい。軟体動物のように体をクネクネ曲げられれば良いのにとこういう時思う。バリアングルモニタのついているオリンパスのカメラのおかげで、手を伸ばしてなんとか良い角度で撮ることができた。やはり、良い機材や良い装備は自分の能力を拡張させるのだ、などと一人で偉ぶった。
 氷に寄ったり引いたりして、何カットか良さそうなのが撮れた。這い上がり、「お疲れ~」と自分に言って、安全な場所まで戻り、休憩を取った。忘れかけていた撮影後の充足感。素直に、嬉しい気持ちだった。

 明るいうちに生き物の足跡を探しておきたいので、周辺の木立に沿って足跡や糞、食痕などを探した。ムースの食痕はいくつかあったが、新しい糞などは見つけられなかった。
 ふと腕時計を見ると、時間は14時近い。暗くなる前にテントに戻らないといけない、というミッションが常に付きまとっていることを思い出した。他にもいくつか川の穴の中を撮りたかったが、テントに戻ることにした。冬至が近いせいで、太陽光に頼れる時間がすごく短いなと改めて感じた。

氷のスタート地点が低いところでは、もう水流に着水しているところもある。
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